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重力の虹(下) の商品レビュー

4.7

9件のお客様レビュー

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2025/05/01

なにしろ体力の要る本だ。古今東西あらゆる知識を闇鍋的に次々と投じ、それらすべてが繋がりを持っているかのような情景を幻視させ話が進んでいく。詩的かつ隠喩で覆われた文章はそれだけで難解なのだが、どこか軽やかでもあり、場面によって高低差が激しい。 話が直線的に進み始める2章以降はだいぶ...

なにしろ体力の要る本だ。古今東西あらゆる知識を闇鍋的に次々と投じ、それらすべてが繋がりを持っているかのような情景を幻視させ話が進んでいく。詩的かつ隠喩で覆われた文章はそれだけで難解なのだが、どこか軽やかでもあり、場面によって高低差が激しい。 話が直線的に進み始める2章以降はだいぶ理解しやすくなるものの、それは1章から見ての相対的なものでしかなくやっぱりむずい。なおかつ語られる内容はスカトロ、SM、大乱交なんかを含んだお下劣でおバカなものでもあるため、ただ「筋を追う」ってことを完全に拒むような作りになっている。 逆に言うと、わかりやすい理解を拒むその姿勢こそが、この小説の在り方とも言える気がする。さらに、書かれたすべての事象をバカバカしいものとし、「後はご自由にどうぞ」と言わんばかりに余地だけ残して投げだすのもこの作者らしいと言えばらしい。そう、つまりこれは拒絶と悪ふざけの集合体小説。 モノも人も突然どこかで発生するわけではなく、さまざまな場所、長い時間を経て、その素材が集められ、ひとつの形を成し、いまそこにあるものとして顕現している。 いずれ、モノはモノとして人は人として、あるべき場所、あるべき人生をたどり、その命が尽きるとき、形は崩れ、存在が解体される。 『重力の虹』が描いているのはそのサイクルなのだろう。 浸透と、拡散と、希薄化という。 もしかしたらこれは青春小説なのかもしれない。まだ不安定な自我が出会いによって規定され、様々な冒険の末に豊かで美しく輝いていた時代が終わりを告げ、希薄化していくという。 その煌めく時代へ、ありったけの愛を込めて、言葉によって紡がれた歪なにかの塊――それが『重力の虹』なのかもしれない。 ちなみに私がもっとも好きな章は第3部25章。プレンティスを一応の視点人物とし、彼の罪の意識を反映させながら、地獄巡りのような、屍者たちとの饗宴のような、妄想とも現実ともつかない混沌としながらも歓喜をともなう光景が延々描写されていき、現代を舞台とした『神曲』の様相を呈す。 映画であれ、文学であれ、すべては他愛もない妄想やでっち上げの虚構ではあるが、この百科全書的迷宮には外側の世界を解体し、脱構築しようとするような、力強い叫びが閉じ込められているように思う。 その全てに意味を持たせ、しかし制約するような状態には置かず、それぞれの重力が可能性を持つような、無限に自由な構造が。そして各々がその重力を感じ取る限りにおいて私たちの愛は死に絶えることがなく、あの、”空を裂く一筋の叫び”は、いまこの時も、絶え間なく互いに影響を及ぼし合っている。

Posted byブクログ

2025/12/16

After Love, then Byron's next lesson is silence. ノーランの『オッペンハイマー』を同時期に観たので、重なるイメージがたくさんあった。「アメリカは原爆を戦争を終結させた良いものととらえている」というよく言われる話は、ど...

After Love, then Byron's next lesson is silence. ノーランの『オッペンハイマー』を同時期に観たので、重なるイメージがたくさんあった。「アメリカは原爆を戦争を終結させた良いものととらえている」というよく言われる話は、どこから出てきた話だろう?って思うくらい、どちらの作品もじゅうぶんにアメリカ内部から疑問を投げかけているように思う。

Posted byブクログ

2023/10/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

評価はできません。 すごいものを読んだ、という自己満足と驚きで頭がいっぱいの状態です。 数々の登場人物、入り乱れる時制と主語と舞台。 猥雑さだけではなく、映画初期や舞台当時の映画作品の数々の言及。見られない作品も多いけれども、ピンチョンのルーツを辿るという意味では興味深いところもたくさんあり。 いくつかピンチョン作品は読んできましたが、質、量ともに最高作ではないかと。 たぶん戦争、欧米植民主義へのアンチと皮肉について延々と書いてあるのでは…と自分の中で納得してからはどんどん読み進めることができました。(その見方があってるかはさておき) 商業化全無視、人力Wikipediaの世界にどっぷりと浸りたいのであれば強く強くお勧めします。

Posted byブクログ

2021/08/22

なんというか。あまりにも変すぎる小説。異国の文化の中にガッチリと根を下ろしていて、軽いテンションで読めない。

Posted byブクログ

2019/01/24

ついに読み終わった……。天才の書いたヤバい小説。それひとつで一冊の小説が書けるようなイメージが次々と現れては消え、語りはあらゆる方角へとびまわり、ところがいきなり物語として余りにも唐突で強引で笑ってしまうほうどの結びつきを披露する。そして、それらを貫くロケットという抽象的な代物に...

ついに読み終わった……。天才の書いたヤバい小説。それひとつで一冊の小説が書けるようなイメージが次々と現れては消え、語りはあらゆる方角へとびまわり、ところがいきなり物語として余りにも唐突で強引で笑ってしまうほうどの結びつきを披露する。そして、それらを貫くロケットという抽象的な代物にまで昇華された存在──。そんなわけで、はっきりいって一読しただけじゃわけがわからない。解説を読んで振り返りながら整理して、やっと全体の複雑すぎる絡み合いが見えてくるよう。それでもただただ圧倒される。サラリーマンになったらこんなものを読む気力があるかはわからないが、絶対にもう一度、二度は読みたい。

Posted byブクログ

2017/11/02

今まで読んだ中で恐らく最も長く、難解な小説だった。 本を持つ手は筋肉痛になり、ほぼ毎日のように不眠・頭痛と戦いながらも、内容が面白いので、決して中断はできなかった。 原文を眺めながら所々邦訳を参考にして齧り付くように読み切った二ヶ月間だった… ただ読後の達成感はハンパじゃなく、ま...

今まで読んだ中で恐らく最も長く、難解な小説だった。 本を持つ手は筋肉痛になり、ほぼ毎日のように不眠・頭痛と戦いながらも、内容が面白いので、決して中断はできなかった。 原文を眺めながら所々邦訳を参考にして齧り付くように読み切った二ヶ月間だった… ただ読後の達成感はハンパじゃなく、また内容の問題意識も重厚なので、この物語は一生私の心に残り続けると思う。 ポストモダン最高!ピンチョン最高!

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2015/05/06

これは高度な知性と技術によって構築されたロケットそのものであり、同時にまた破壊された情報と文化の残骸でもあるのだろう。超然とそびえ立つ本作は確かに難解で複雑だが、二項対立が無化され権力がシステマチック化された現実ほどではない。エロも戦争も科学も映画も並列して存在する20世紀、そん...

これは高度な知性と技術によって構築されたロケットそのものであり、同時にまた破壊された情報と文化の残骸でもあるのだろう。超然とそびえ立つ本作は確かに難解で複雑だが、二項対立が無化され権力がシステマチック化された現実ほどではない。エロも戦争も科学も映画も並列して存在する20世紀、そんな不思議の国に起立するバベルの塔の様な本作は自分にとって歴史という罪への、敗北したカルチャーへの供物のように感じられた。時代が勝者によって作られようとも、ピンチョンが打ち込んだ楔は誰も消し去れやしない。そして驚くことにまだ笑える!

Posted byブクログ

2014/12/10

もうね、何が何だかさっぱりわかりません。 誰の話なんだか、いつの話なんだか、何の話なんだか、一回道に迷ったら最後、いつまでたっても迷いっぱなし。で、気が付いたらいつのまにかロケットに押し込まれてドーン!と発射。 どうにもわからないから、正義とか裏切りとか、愛とか憎しみとか、要は...

もうね、何が何だかさっぱりわかりません。 誰の話なんだか、いつの話なんだか、何の話なんだか、一回道に迷ったら最後、いつまでたっても迷いっぱなし。で、気が付いたらいつのまにかロケットに押し込まれてドーン!と発射。 どうにもわからないから、正義とか裏切りとか、愛とか憎しみとか、要は僕でも理解できる感傷に逃げ道を探してわかったような振りをしてみたいんだけど、ピンチョン先生はそんなことは全く許してくれず、やたらと多い登場人物たちが頻繁に出たり入ったりするもんで全くついていけないドタバタ劇と、複雑に絡み過ぎていてもはや誰が誰に仕掛けたものかわからない陰謀の千枚漬けの中でひたすらもがき続けるような読書体験。共感の付け入る隙が一切見つかりません。 ちなみに、どんなお話かかいつまんで説明すると、「V2ロケットとか戦争とか巨大複合企業とか二元論とか植民地とかSMとかバナナとかドードーとか蛸とか、のお話」です。 で、その中に「電球バイロンの物語」という章の中で完結してくれる比較的わかりやすい物語内物語がある。「バイロンという永遠に切れることのない完璧な電球」と、「切れるからこそ需給関係が成り立つ消費財としての電球流通システムである巨大白熱電球カルテル」との対立、という構図。 はじめはカルテルに追われる逃亡者として、次に怒りを抱えた反逆者として電球たちに連帯を呼びかけようとするもかなわず、胸の内にはフラストレーションをくすぶらせつつも永遠に光りを放ち続ける無力な電球という宿命を無力さとともに受け入れ、沈黙の中で傍観者となるバイロン。あの電球のころんとした形と相まって可愛いような可哀想なような、ひねくれバイロン。 帯によると400人以上の登場人物がいるらしいんだけど、その中で、一番感情的な思い入れをしやすいキャラクターが「電球」てのもなんかの冗談なんじゃないでしょうかね。

Posted byブクログ

2015/05/11

決して読みやすくはない。それに長いし。旧訳にあった日本語として明らかにおかしい部分は直っているように思うものの、新訳だからといって特に読みやすくはなっていない。もともと原文を知らないので、訳について言及するのは避けておくが、欄外の註については一言ふれておく必要があるだろう。OSS...

決して読みやすくはない。それに長いし。旧訳にあった日本語として明らかにおかしい部分は直っているように思うものの、新訳だからといって特に読みやすくはなっていない。もともと原文を知らないので、訳について言及するのは避けておくが、欄外の註については一言ふれておく必要があるだろう。OSS等の略語や化学・工学に関する学術用語、映画や音楽の引用、言葉遊び、宗教学・神話学・隠秘学関連の知識等々が頻出するピンチョン・ワールドに少しでも近づきたいと思う読者には実に懇切丁寧な解説がなされている。 『重力の虹』とは、ロケットの軌道が描く放物線の隠喩である。第二次世界大戦末期、英国に対する報復兵器としてナチス・ドイツが開発したV2号ロケットにまつわる国際的な陰謀を、想像を絶するスケールで描いた小説。場面が切り替わるごとに、とんでもない数の人物が登場しては、某議員なら「口にするのも汚らわしい」と口にするだろうSMをはじめスカトロジー、ペドフィリアなど異常性愛の百科全書完成を企図したかのような、ポルノ・グラフィーまがいの卑猥かつ下品な語句が機関銃のように連射される文章に交じって、ロケットやプラスティック開発に関する解説抜きの専門用語がぽんぽん出てくる小説で、万人向けとはとても言い難い代物。 作者自身が持つパラノイア的といえる被害妄想や誇大妄想が、抑圧からの解放を待っていたかのように爆発的に展開しているのが最大の特徴といえる。ふつうなら、これだけ多様な挿話をひとつの小説内に封じこめるのは無理と考えて、いくつかに分けて別の小説にするものを、無理矢理、力ずくで一つの作品にしてしまった。旧訳についで新訳、と二度読んだが、正直なところ読み通すのが、つらかった。波に乗り、集中力が持続するときは、ドライブ感がある文章に乗せられて、ドーパミンが出まくり、とんでもなく面白いのだが、一つ躓くともういけない。卑語、俗語の多用に辟易してしまい、読み続けるのが苦行と化す。読むのにある種の体力を要する小説である。 極めて映画的な小説でもある。映画に詳しい読者なら、作者が設定したキャスティングに従って脳内で映画化を試みるといいかもしれない。アメリカ人のグループが登場すると西部劇やらハリウッド映画が、ドイツ人たちにはウーファ映画からフリッツ・ラングやムルナウの作品、と有名な映像から男優、女優が多数招聘され、小説に華を添えている。 作品の主題や作家の世界観を真面目に論じるのも気が引けるような破天荒な小説なのだが、馬鹿を承知で無理矢理こじつけてみるなら、「この<戦争>は、政治とは無関係。政治は完全にお芝居、民衆の注意をそちらに向けておいておく(ママ)ためのものであり…その陰でテクノロジーの要請こそが、専横的な力を揮い、事態を動かしていた…人間と技術とが一体となって、戦争というエネルギー・バーストを必要とする何者かに変化したのだ。表向きは「カネがどうした、わが国(どの国も挿入可能)の生存がかかっているのだぞ」と喚めきたてているものの、その意味は、おそらくこうだ」のようなところに見え隠れしているのではないか。 ピンチョンに、アナーキストに寄せる偏愛があるのはよく知っているが、後にはストレートに示されるその傾向がネガティヴな形で噴出しているのが『重力の虹』ではないだろうか。誰にも愛される主人公があちこち引きずりまわされ、道化めいた扱いをされ続けた挙句ぼろぼろになってしまうあたりに、救い難い世界に対する苦味が強く感じられ、せっかくのヒューモアも打ち消されてしまっているように感じられてならない。「全小説」と銘打たれたシリーズが刊行され、次々とピンチョンの小説が訳される中、ようやく代表作の新訳が完成したことはまことにめでたい。訳者曰く「三度読めば分かる」そうだ。ファンなら、読むしかないだろう。(上巻も含む)

Posted byブクログ