蜜情ひとり旅 の商品レビュー
自分を再発見する旅の終わりに得たものは?
竹書房ラブロマン文庫よりデビューを果たした作者による初の「竹書房文庫」作品。内容はともかく枠組みとして官能小説の扱いはされないのであろう。某大型古書店においても本作に関して今後は「官能小説」ではなく作家順の「は行」で探さなくてはならない。何より表紙にカバーを付けたり裏返して「白表...
竹書房ラブロマン文庫よりデビューを果たした作者による初の「竹書房文庫」作品。内容はともかく枠組みとして官能小説の扱いはされないのであろう。某大型古書店においても本作に関して今後は「官能小説」ではなく作家順の「は行」で探さなくてはならない。何より表紙にカバーを付けたり裏返して「白表紙」にすることなく読める葉月作品なのである。 この新たな挑戦には敬意を払うところだが、これにより物語と官能のバランスがどれだけ変化するか?については気掛かりであった。しかして、それは半分ほど杞憂だったと申し上げる。やはりと言うか、あくまでも物語があっての官能というポジションであり、当初から一夜限りと分かるものではあったが、その描写は思ったよりも濃厚だった。 リストラの憂き目に遭い、妻の浮気も発覚して自信を喪失した主人公(40歳)の自分再発見の旅である。仙台・青森・札幌・帯広・富良野と向かう中で出会う女性達との関わり一つ一つがきっかけの種となっていく。そんな構成なので5章立ての5人ヒロインと言えるが、冒頭で妻の浮気シーンがあり、中盤では少年時代の担任教師との回想シーンもあるので出てくる女性は7人と数えることもできる。そのプロローグこそ作者らしい寝取られの淫猥さが見られるものの、基本的には穏やかな官能場面が大半である。それぞれの女性が抱える悩みを解決しながら自分にも気づきがあるといった感じか。 物語に主眼を置いた作者の意図が感じられる展開ではあるのだが、その割に主人公がなかなか復活しない。全12日間という旅程なので、そうも早く元気を取り戻しては現実味に欠けるとの考えもあろうが、印象としてはずっとうじうじしている主人公である。 幼少期を過ごした富良野で出会うかつての幼馴染みとの関係が最終的に踏ん切りをつける形にはなっているが、ここはもう少し具体的な、あるいはもう少し前向きな、スッキリする何かがほしかった気がする。最後の女性を離婚か未亡人で独り身にして幼き頃の愛情を再確認しながら新しい関係を育む結末もあったように思ったのだがやり過ぎだろうか。 だがしかし、新たな段階を経た執筆を模索する中での作品と捉えることもできるので、むしろその一歩を踏み出した作者の、次の「竹書房作品」に寄せる期待は小さくない。
DSK
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