シングルモルトを愉しむ 新版 の商品レビュー
酒を飲み出した頃、オールド・パーやワイルド・ターキーを飲ませてもらって美味いと思ったが、自分で買えるのはニッカやサントリー。しかしいまや日本のウイスキーは世界五大ウイスキーのひとつとして高い評価を得ていると聞いてびっくりしたのも、連ドラ『マッサン』のおかげで久方にウイスキーに関...
酒を飲み出した頃、オールド・パーやワイルド・ターキーを飲ませてもらって美味いと思ったが、自分で買えるのはニッカやサントリー。しかしいまや日本のウイスキーは世界五大ウイスキーのひとつとして高い評価を得ていると聞いてびっくりしたのも、連ドラ『マッサン』のおかげで久方にウイスキーに関心を持ったから。しかし『マッサン』以前にすでにハイボール・ブームでウイスキーの販売量はここ数年上向いていたそうだ。さらに世界的にはBRICSなどの新興国のウイスキー需要が高まり、台湾のカヴァランやインドのアムルットなど、新興国で醸造を開始して国際的な評価を得ているメーカーもある。こうした最新情報を踏まえた本書は2002年刊の同名書の新版である。 『マッサン』では「最高のウイスキーを作る」と言う以上の蘊蓄はさっぱりないので、本書を読む。 ビールを蒸留したのがウイスキーなどと聞き知っていたが、あれは嘘だな。確かに原料は大麦ということで一緒。水にふやかして発芽させ、麦芽にする。それ以上、発芽が進まないように熱で乾燥させる。それを挽いて温水で糖化して濾し、酵母で発酵させる。ここまではだいたい同じ。乾燥させる際にウイスキーとくにスコッチではピート(泥炭、草炭)を焚いて独特の風味をつけるし、ビールではホップを入れるという違いはあるが。 それで糖がアルコールになった時点で蒸留するのがウイスキー。二回蒸留するのが一般的なので、ポットスティルが二基並んでいるのだ。しかしそれではまだ透明な蒸留酒であり、あの琥珀色の液体ではない。そこからが面白い。オークの樽に詰めて寝かせる。スコッチだと3年以上という決まりがあるそうだ。12年くらい寝かさないと本当に美味いウイスキーにはならないなどもいうらしい。寝かしている間に樽から様々な成分が溶け出して色と風味がつく。木の成分が出過ぎないように樽の中を焼いたり、オークの種類をかえたり、風味付けのためにシェリー酒を醸造した樽やバーボンを寝かせた樽を使用したりする。つまりウイスキーとは麦+オーク+フレーバーなのだ。人工的にフレーバーをつけてもよさそうなものだが(そしてそういう酒も売られてはいるが)、やはり樽からじっくりと染み出すのがいいらしい。 そうするとウイスキーは樽造りが重要であったりするのだ。麦のほうは現在では蒸留所で麦芽にするのではなく、専門の業者(モルトスター)がその蒸留所に合わせたやり方で作って納入することが多いそうだ。日本の大手メーカーも然り。すると蒸留所の腕の見せ所は蒸留と熟成なのである。樽で熟成するうち、水分もアルコール分も少しずつ揮発して量が減っていく。これを「天使の分け前」というのは有名な話だろう。それも樽の置き方や置き場所で微妙に変化する。しかも結果が出るのは仕込んでから何年後。何ともはまりそうな仕事ではないか。近年、小さな蒸留所も増えているという。 こうして各蒸留所で作られた個性の強いモルトウイスキーは、しかしスコットランドの田舎の酒だった。そこにトウモロコシなどから作ったグレーンをブレンドしてまろやかな飲み口にしたブレンデッド・ウイスキーが生まれることでウイスキーは広がったのだが、いままたシングルモルトへの嗜好が高まっている。本書は『シングルモルトを愉しむ』なのでモルトの話が主であり、またスコットランドの話が主である。雑誌の編集者であった著者が釣りの魅力に惹かれてアイラ島に行ってウイスキーと知り合うなれそめから、製造法、蒸留所の紹介、はたまたスコットランドの文化まで章ごとにいくつかの話題を集めている。著者はある雑誌で世界の五大ウイスキー・ライターに選ばれ、『マッサン』ではウイスキー考証を担当している。 スコッチの醸造所と代表的なボトルを並べた口絵も楽しい。
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