仁義なき戦い 公開40周年 そのすべて の商品レビュー
菅原文太といえば『仁義なき戦い』だろう。 今日12月3日の「天声人語」で、文学青年であったことを知る。アウトローとしての俳優稼業は、世を忍ぶ仮の姿だったのだろうか。 脚本を手がけた笠原和夫は東京生まれだが、戦時中海兵団に所属し広島で原爆のキノコ雲を見ている。 映画は、湧...
菅原文太といえば『仁義なき戦い』だろう。 今日12月3日の「天声人語」で、文学青年であったことを知る。アウトローとしての俳優稼業は、世を忍ぶ仮の姿だったのだろうか。 脚本を手がけた笠原和夫は東京生まれだが、戦時中海兵団に所属し広島で原爆のキノコ雲を見ている。 映画は、湧き上がるキノコ雲とともに始まる。復員してきた菅原文太が演じる広能は、敗戦直後の混乱を目の当たりにする。刑務所で知り合った若杉と兄弟の契りを結んだのをきっかけに、仁義を重んじているはずのヤクザの組織に入る。しかし、そこも裏切りと殺し合いに明け暮れる世界であった。金儲けに走る組長山守は、拝金主義の政治家や実業家を彷彿とさせる。若杉も死に、信頼していた坂井も「仁義もくそもあるか」と口走り、新しい組を立ち上げようとして殺される。そして、ラストシーンは坂井の葬儀。真っ最中に、平服で現れた広能は、偽りに満ちた儀式に抗議するかのように、祭壇に捧げられた香典袋の山や供花に添えられた名札に向けて拳銃をぶっ放す。 そして、「山守さん、弾はまだ残っとるがよう・・・」と呟く。 この映画が公開されたのは昭和48年、高度成長期のまっただ中。好景気に浮かれていた日本への批判が込められていることは確かだ。40年前の映画だが、仁義なき戦いは現在も続いていて、広能の拳銃が、アベノミクスに翻弄される昨今の社会風潮を撃っているようにも感じられる。 映画『仁義なき戦い』を観てから、笠原和夫・荒井晴彦・絓秀実の鼎談集『昭和の劇』(太田出版)を読むと、笠原の怨念が伝わってきて、現在の「平成」という時代のいかがわしさが浮き彫りにされてくる。 偽りの時代を撃つために、『仁義なき戦い』という弾を残してくれた笠原和夫と菅原文太の冥福を祈りたい。
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