付添い屋 六平太 龍の巻 の商品レビュー
時代劇の脚本家が時代小説を書いたらしい。 主人公の六平太は藩のお家騒動に巻き込まれ、浪人となった。しばらくは理不尽を嘆きながら、酒を飲み、やさぐれ、自暴自棄になった過去がある。しかし今は、年の離れた妹の佐和と二人で暮らし、剣術の腕をいかした付添い屋稼業で生計を立てている。...
時代劇の脚本家が時代小説を書いたらしい。 主人公の六平太は藩のお家騒動に巻き込まれ、浪人となった。しばらくは理不尽を嘆きながら、酒を飲み、やさぐれ、自暴自棄になった過去がある。しかし今は、年の離れた妹の佐和と二人で暮らし、剣術の腕をいかした付添い屋稼業で生計を立てている。付添い屋とは、いうなればボディガード。裕福な商家や町人の子女などが遊興や野暮用で町中を歩く際、半日くらいの契約で、掏りや暴漢から守ることを請け負う稼業のこと。 一読しただけだと、登場人物が多く、キャラクターがよくわからなかったので、間をおいて二回読んだ。そうしたら結構、味のある話で面白かった。4編の短編で構成されている。 気に入ったのは『初浴衣』という短編。 大名行列の前を横切った少年が殴り飛ばされて、意識が混濁したことに怒り心頭の父親が藩邸に糞尿をばらまいた。義憤にかられた六平太と面子をつぶされた藩の家老がみせる駆け引きが面白い。父親に味方した町人たちは武家に対して、知恵でたたかう。したたかで痛快だ。家老は家老でただの頭でっかちかと思えば、最後の最後で粋なことをする。 その他に『雨祝い』『留め女』『祝言』の短編がある。 この小説は六平太とともに、妹の佐和も大きな役割を担っている。『祝言』は佐和が結婚する話。 佐和と六平太は兄妹だが血のつながりはない。そのあたりの事情は最初の短編『雨祝い』に詳しい。『祝言』で嫁ぐ佐和の心情の移り変わりを読むと、おめでたい話なのに、せつない部分もある。 人気脚本家らしいから、もしメディア化するなら個人的には石原さとみあたりに演じてもらいたい。 ひとつ難を言えば六平太の強さがピンとこないこと。 なぜかというと、必殺技(剣)がないから。相手を上手くいなし、反撃の芽をつぶす太刀裁きは、達人ぶりを感じさせるのだが、特徴がないだけに、球種が豊富で丁寧なピッチングでゲームをつくる中継ぎ投手のような印象だ。抑え投手には絶対必要な伝家の宝刀がない。 プロレスで例えるなら、いくら強くてもアントニオ猪木が鉄拳制裁や延髄蹴りを出さずに勝利してしまったら観客が沸かないのと一緒で、六平太にも何か読者をわくわくさせる必殺技を編み出して欲しい。 六平太の飄々として、女心に疎く、ちょっと間抜けな、でも強い、といったキャラクターを全く想像できない表紙は、メディア化の際はとっとと変えた方がいいと思う。
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