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夏目漱石『こころ』をどう読むか の商品レビュー

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2023/01/25

奥泉光×いとうせいこう…読んでいて『こころ』は決して明かされない深い裏設定のあるゲームに似ているという印象を抱いた。その不明瞭さがプレイヤーの考察を誘発して今でもカルト的人気を持つ…みたいな。そんな作品を教科書に載せちゃうなんて。「失敗作」じみたバランスの悪さを凌駕する魅力がある...

奥泉光×いとうせいこう…読んでいて『こころ』は決して明かされない深い裏設定のあるゲームに似ているという印象を抱いた。その不明瞭さがプレイヤーの考察を誘発して今でもカルト的人気を持つ…みたいな。そんな作品を教科書に載せちゃうなんて。「失敗作」じみたバランスの悪さを凌駕する魅力がある。 《不可思議な恐ろしい力》こそ認知の歪みでディスコミュニケーションを生むものなんだよな。 東浩紀…ドストレートに『こころ』は同性愛者の物語であると読んでいる。他の評論を見てもBL連想はポピュラーな読みらしく、そう言えば人生で初めて読んだ『こころ』の考察が、確か石原豪人の『謎解き・坊っちゃん』(クラスメイトが突然貸してくれた)に載ってるやつだったと思い出した。 もし「私」に出会うことで先生がそれまで自覚していなかった性的嗜好に気付いてしまったのだとしたらたいへん辛くてエモい展開だと思います。 水村美苗×小森陽一…漱石の男女観の話か~と萎えかけたが流石の二人。広い見解で作品をサラッと深く語っていて引き込まれた。「明治精神に殉死する」からイエを捨てられない・恋に走れない=近代市民になり損ねた先生の意味も読み取れるという指摘にハッとした。日本と英国の価値観の間で引き裂かれそうな漱石像が見えた。 丸谷才一×山崎正和…読者が曖昧で謎めいた気分に捉えられ、勝手な意味を付与したくなる作品は魔性だ。時代と教養と経験が作家と作品を作り上げることが丁寧に説明されている。何故自分が漱石作品に惹かれたのか少しわかった。 夏目房之介…言葉選びが上手すぎる。漱石は「他人を思いやることのできる繊細な人だった」と同時に「結局自分のことしか考えていない」 山崎正和…先生の謎の言動に対し整合性があり納得のいく読み解きでスッキリしかけたけど解釈をここで留めてはいけない。解釈は無限にあるんだ、そうだろ!? 小森陽一…こころ=あたたかな血の流れるハート(心臓)。『こころ』には血の描写がいくつも表れる。言葉と意味を丁寧に掬い取る小森先生のテクスト分析方法に憧れる。 「明治精神に殉死する」の一文はどの研究者や評論家も引っ掛かっているみたいだ。すごく浮いてるし。 思ったのは、もう物語の次元を超えて(作者が)読者に直接語りかけてきているみたいだということ。映画『ベルリン天使の詩』で主人公達が最後に観客達の方を向いて話しかけてくるみたいなあの感じ。 個人主義の時代が始まり金や権力への関心が高まった。だが心を疎かにするな。孤独を引き受けて自分の頭で考えろ、と。言ってしまえば啓蒙か。今のところはそう感じているけれど、生涯考えたって答えは出なさそう。

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2022/09/07

【自由研究】『こころ』(2) 印象に残った言葉。 「明治、関係ない」ー奥泉光 「そもそも、この作品の出だしは完全にBLでしょう」ーいとうせいこう 要するに彼(漱石)は、今風にいいかえるなら本質的には「ジコチュー」だったわけだ。ー夏目房之助 静に関して 先生の遺産で悠々自適に暮ら...

【自由研究】『こころ』(2) 印象に残った言葉。 「明治、関係ない」ー奥泉光 「そもそも、この作品の出だしは完全にBLでしょう」ーいとうせいこう 要するに彼(漱石)は、今風にいいかえるなら本質的には「ジコチュー」だったわけだ。ー夏目房之助 静に関して 先生の遺産で悠々自適に暮らす静を想像したい。ー押野武志 ** 「自己の心を捕へんと欲する人々に、人間の心を捕へ得たる此作物を奨む」 とは漱石が自筆で書いた『こころ』の広告文(1914年)だそうです。いろんな意味で捕らえられてます。 そしてここで意外な新事実が!! (漱石は)徴兵忌避をした青年時代がある。(中略)そのときの罪の意識をずっと培養して、育成していって、『こころ』の先生の自殺につながるという面はあるかもしれませんね。ー丸谷才一 えーΣ( ºωº)!! これは見逃せない要素ではないでしようか?! 続く

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2016/02/27

「こころ」を二回続けて読んだ。 ホモの話だという説もあると聞いて、え?そうなの?と思ってしまい、手に取った。 でも、結局、各個人が解釈を述べていて、著者は既に鬼籍の方であるので、結果が出ないで、ある意見には納得、ある意見にはうーんと思うのは変わらずで、やっぱり分からないままだっ...

「こころ」を二回続けて読んだ。 ホモの話だという説もあると聞いて、え?そうなの?と思ってしまい、手に取った。 でも、結局、各個人が解釈を述べていて、著者は既に鬼籍の方であるので、結果が出ないで、ある意見には納得、ある意見にはうーんと思うのは変わらずで、やっぱり分からないままだった。ただ、色々な読み方ができるとは、改めて認識。 少しく残念なのが、作家が対談しているが、誰?っていう人が多いこと。編者の講演の部分で、他人の意見をおそらく間違っているという点については残念。 135ページの、静に話したら本当に許されのではないか。それを許さないのは、妻への告白によりもっと大きな罪(罪の意識が時の流れに伴い薄れてしまうなど?)を自覚しなければならないので、一種の感情の偽造である。 163ページの襖が先生とKの心の壁であるという解釈は興味深かった。先生の方からは開けなかったとあり、Kに対しては先生の方が相手に興味を持っていると思っていたので意外だった。Kは恋をし、先生を必要とした。そして伝えたい事があった。だけど、襖が閉じられていて、伝えられない孤独があったとのこと。なるほど。 他には、静だけが、固有名詞を与えられており、この後、強く生きていくのではないかという解釈。 確かに!漱石の他の人物描写に伴って、奥さんや妻という名称だけでもやっていけるだろうに、名前がある!

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2014/10/12

朝日新聞で100年ぶりに漱石の「こころ」を、再連載していた。かく言う私も30年ぶりに読み直すことになったが、まぁ、それなりに感じるところは、中学生の頃とは、違うような・・・ ということで、本書。こころの捉え方って、いろいろあるんだなってところ。硬軟取り混ぜて色々な「こころ」論が...

朝日新聞で100年ぶりに漱石の「こころ」を、再連載していた。かく言う私も30年ぶりに読み直すことになったが、まぁ、それなりに感じるところは、中学生の頃とは、違うような・・・ ということで、本書。こころの捉え方って、いろいろあるんだなってところ。硬軟取り混ぜて色々な「こころ」論があり、それなりに楽しめた。結局、簡単なプロットながら、共感できる内容が含まれ、同時に納得いかない感も満載、それが「こころ」にみんなが惹かれる要因なんだと思う。

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2014/09/29

 小説は多様な読みを与えてくれるから面白い。しかも、発表から100年を経ても、なお新しい読みを可能にしてくれる夏目漱石の作品は、さながら古井戸のようだ。新しい水が地下深くからこんこんと湧き出し、口に含むと奥行きのある味が広がる。  『こころ』をめぐって、多くの対談、短文、評論を集...

 小説は多様な読みを与えてくれるから面白い。しかも、発表から100年を経ても、なお新しい読みを可能にしてくれる夏目漱石の作品は、さながら古井戸のようだ。新しい水が地下深くからこんこんと湧き出し、口に含むと奥行きのある味が広がる。  『こころ』をめぐって、多くの対談、短文、評論を集めている。誤読や勝手読みも含めて、うまく選び抜かれており、作品の一義的な解釈を排する効果も生んでいる。  作田啓一の「師弟のきずな」は、「<先生>はKの欲望を模倣した」とする立論をベースに、愛するためにも媒介者に依存せざるを得ない構造を明らかにした上で、<自己本位>を貫くことのの困難さを指摘している。  小森陽一の「『こころ』を生成する心臓」が秀逸だ。小説『こころ』の構造が、全体で<私>の手記となっており、<先生>の遺書も<私>の引用の一部であるとする分析により、この新聞小説の最終回を読み終わった後、小説の冒頭へと回帰することを促す。すると、これまでは後に控えていた<私>と<静>の存在がいきなり前面に姿を現し、暗いはずの『こころ』が、<生き直し>の物語に生まれ変わるのを発見できる。  作者漱石は、<私>と先生との差異を意識してこの小説を書き始めている。冒頭で、<私>は、確かに「私はその人の記憶を呼び起こすごとに、すぐ<先生>と云いたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。」と記している。一方、先生はその遺書の書き出しで友達を「K」というよそよそしい頭文字を使って書き記している。  さらに、<静>である。静の口にする言葉は少ないが、いつも男の論理からは距離をおいた突き放したトーンを帯びている。極めつけは、明治天皇崩御を知って、明治の精神が終わった、時勢遅れだという先生に対して、静は笑って取り合わず、殉死でもしたらと調戯う始末だ。時代への批評を女性に語らせる漱石がここにはある。  <先生>の遺書の余韻に酔いしれてこの小説を閉じるのではなく、冒頭に帰って読み直すと、古い時代と決別しようとして逞しく生きて行くに違いない<私>と<静>の姿が見えて来る。

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