失われた足跡 の商品レビュー
語り手(主人公)のインテリ感、女に対してだらしないうえに優柔不断で自分勝手さにイライラした。 全ての人がそうではないと思うが、故意なのかと思うほど、頭でっかちで自分の才能だけを信じる芸術家に対しての皮肉が物語の全容に貫かれているので、心底芸術家というものを信用出来なくなりそうに。...
語り手(主人公)のインテリ感、女に対してだらしないうえに優柔不断で自分勝手さにイライラした。 全ての人がそうではないと思うが、故意なのかと思うほど、頭でっかちで自分の才能だけを信じる芸術家に対しての皮肉が物語の全容に貫かれているので、心底芸術家というものを信用出来なくなりそうに。 ストーリー自体は暗く、正直私には面白いと思えなかった。 ですが、カルペンティエルの筆力、表現力には度肝抜かれました。 ラテンアメリカの驚異的な自然を、どうしたらこれほど緻密且つ、感性全てを駆使して描けるのかと感激さえした。動画や写真ほど、いやそれ以上に、今そこに見えているように書けるのか。 とにかくこの物語はそこに尽きます。
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ジャングルの生活に魅了されたインテリが、結局なじめず、かといって現代社会にすっきりと戻ることもできなくなる。 語り手のエクスキューズや言い訳が連発し、それが物々しい箴言めいた口調で語られるので、情けないやら馬鹿らしいやら。 つまり、あちらがわから見たこちらがわの振り返りも説得力がない、すなわち、文明批判としては失敗している。 それ以前に、ジャングルがユートピアだなんて、なんて単線的な理解。(もちろん生活の苦しさについては書いているが) 語り手が愛人ムーシュに手厳しい以上に、作者が語り的に厳しいともいえるが。 ただし、現代社会にも未開社会にもどちらにも馴染めない悲哀、自業自得だが、にはやや同情。 未開にあこがれる文明人というジレンマが続く。 そして地理的移動が時間的移動とシンクロしていく作りは成程。 ただし、そういう話を「いま読む価値」があるのかと問うてみると、あまり感じられない、やもしれぬ。 ラテアメブームの火付けとしてはいいのかもしれないが。 異国情緒、エキゾチズムを超えるには、むしろ前衛的手法が必要で、僕がラテアメに惹かれるのはそこなのだが。 音楽の誕生の場面の凄みは買いたい。
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作曲家の主人公は現代文明から隔絶されインディオが生きる旧石器時代のジャングルのなかに永遠の楽園を見つけたようだ。しかしながら、そこで何らかの啓示を受けて作曲を構想するのだが、それを譜面に落とすその譜面にする紙が無いためにまた現代文明に戻ることになる。再び訪れようとしても目印となる...
作曲家の主人公は現代文明から隔絶されインディオが生きる旧石器時代のジャングルのなかに永遠の楽園を見つけたようだ。しかしながら、そこで何らかの啓示を受けて作曲を構想するのだが、それを譜面に落とすその譜面にする紙が無いためにまた現代文明に戻ることになる。再び訪れようとしても目印となる楽園への入口は水没して分からない。結局、主人公はまた元の生活に戻るのだ。西洋人は旧石器時代まで遡行しないと自然と一体となった生活を感じられないのだろうか。日本人は石牟礼道子の描く世界にそれを感じることができるのだが。
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