伝説の西鉄ライオンズ の商品レビュー
本書は,2010年10月~12年9月の2年間,『産経新聞』九州・山口版に連載された「伝説の西鉄ライオンズ 生誕60周年」を題材に,著者が加筆・修正したものである。第1刷の発行は2014年5月だったが,多忙にかまけていた評者はようやくこの時期に至って購入し,読了できた次第である。...
本書は,2010年10月~12年9月の2年間,『産経新聞』九州・山口版に連載された「伝説の西鉄ライオンズ 生誕60周年」を題材に,著者が加筆・修正したものである。第1刷の発行は2014年5月だったが,多忙にかまけていた評者はようやくこの時期に至って購入し,読了できた次第である。 2008年に西鉄ライオンズの親会社である西日本鉄道(株)が創立100周年を迎え,その『百年史』に球団の歴史を刻んで以来,福岡では西鉄ライオンズの歴史を再評価する動きにある。それ以前にも,たとえば立石泰則が三原脩監督の一代記を著した『魔術師』文藝春秋,1999年や,稲尾和久投手の『神様,仏様,稲尾様――私の履歴書』日本経済新聞社,2002年といった著作を通じて球団のエピソードを把握できたが,やはりかつての親会社が全面的に協力して資料を提供できるようになった点は大きい。著者は,前著『西鉄ライオンズとその時代』海鳥社,2009年においても同社に遺る球団の記録写真を厳選しているが,本書においても,それらを挿絵として利用し,当時の選手,フロント,観客や福岡市民の表情を豊かに掲載している点は,特筆すべき本書のポイントの1つである。 2つ目のポイントは,日本シリーズ三連覇を遂げた頃(1956~58年)の「野武士野球」の実態に迫り,そのイメージを転換させた点にある。「あとがき」にも記されているが,豪快なプレースタイルとは裏腹に,酒を飲めない,ないしは飲まなかった「野武士」も少なくなかったようである。こうした新しい逸話を本書に盛り込めたのも,ひとえに著者がOBや関係者から直向きに証言を得てきた結果であろう。 本書に対する評者のコメントは,以下の2点にまとまる。第1は,本書の構成である。本書は3章(「誕生!史上最強軍団」,「サムライ列伝」,「野武士伝説」)に大別されるが,各章の内容にそれほど大きな差異は見られない。これに加えて,各エピソードの紹介順がけっして時系列で進行しているわけでもない。したがって,話題の展開に対するダイナミズムに欠け,些か静態的に感じてしまう側面がある。 特に最後のエッセイでは,「背番号3の系譜」として,日本プロ野球界で最初に背番号3を付けた選手である巨人軍の田部武雄を紹介しているが,彼は,西鉄ライオンズ誕生以前の1945年に沖縄地上戦で戦死している。むしろ,このエッセイの前に掲げられた「打撃練習に新兵器」(西鉄の投手として活躍した坂上惇が引退後にバッティングマシンを発案し,ライオンズの打撃練習に使用したこと,そして坂上自身が後楽園球場の右翼スタンド下に硬式バッティングセンターを開設し,球場閉場まで営業し続けたこと)を,本書のクライマックスに据えたほうが,伝説の余韻を残しやすかったのではないだろうか。 第2の評点は,いまや伝説となった西鉄ライオンズの球団史をどのように位置付けるかである。その際,留意すべき点が2つある。1つは共時性の問題で,往時の西鉄ライオンズ史だけを語っても,それは一地方球団史に終わってしまう。プロ野球の歴史は,好むと好まざるとに拘わらず,セリーグひいては巨人を基軸にしてきた都合上,それらとの関係性や対称性がより相対的に描かれれば,伝説となった球団の存在意義がもっと明確に浮き出るに相違ない。 いま1つは通時性の問題で,西鉄ライオンズ史を語るうえで,三連覇の時期だけを限定的に採り上げるだけでは,やはり「良いところ取り」の印象を拭いきれず,単なるノスタルジーに終始してしまう嫌いがある。西鉄ライオンズは良くも悪しくも短期間に絶頂とドン底を経験した稀少な存在であり,その両面を採り上げることが,この球団自体,ひいては福岡,九州の戦後史をこれから再検討するうえで,必要不可欠な姿勢である。そうはいっても,この評点は本書の目的を大幅に超越しているので,どちらかといえば今後の執筆者に対する課題だといえよう。
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