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セピア色の秘帳 の商品レビュー

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喪ってから紡がれる父子の絆

あらすじにある『父の女性遍歴が克明に』や『その赤裸々な内容に衝撃』といった文言にある種の獣欲のごとき淫らさ全開の激しさのようなものを予想していた自分を恥ずかしく思うほどの、官能小説としての格調の高さに少し驚いている。 真面目な教師として堅物に過ごしてきた亡父のまさしく青春を...

あらすじにある『父の女性遍歴が克明に』や『その赤裸々な内容に衝撃』といった文言にある種の獣欲のごとき淫らさ全開の激しさのようなものを予想していた自分を恥ずかしく思うほどの、官能小説としての格調の高さに少し驚いている。 真面目な教師として堅物に過ごしてきた亡父のまさしく青春を垣間見る日記帳であり、自らの人生を彩ってきた女性達への気高くも真摯な愛情が、その息子たる主人公の行き詰った考えにも影響を及ぼし、導いていく。生前は反発さえしていた父と子が、日記を通じて父の本音を知り、理解していき、そして諭される。そして、女性を真っすぐ愛する術を同時に知る。これを父の生前に面と向かっては行えないところがまた男同士らしくもあって少しニンマリしてしまうのだが、だからこそ日記が父からの愚直な恋愛教科書でもあったと捉えることもできよう。その劇的な結末も後押しして、実に官能小説らしからぬ清々しさを感じた1冊だった。 日記帳は、いわゆる初恋と言えるような1冊目と、初めての燃え盛るような愛の2冊目、そして、永続的な愛の始まりを告げる3冊目から成る。これを敢えてヒロインと呼ぶならば3人ものヒロインとの逢瀬とも言えよう。しかし、ここには恋愛というものが大体においてこうした段階を経て成就することを示しているようでもあり、実際にその情景はリアルそのものである。どの場面も女性からアタックが始まっており、その意味においてはモテる父ではあるのだが、これを安易と断ずるのは野暮と言うもの。控えめながらも誠実な男だからこそ女の母性がくすぐられ、好かれるのだと思いたいし、そうしたメッセージだとも受け取りたい。 正直なところ第一章は余分にも感じたが、これがモヤっとした主人公の現在を示すものであり、晴れやかな未来を見据えた第六章との対比と見れば趣深い。また、第五章『略奪の情事』は、その章題だけで内容を想像すると大いなる素敵な肩透かしを喰らう。自分が生まれてくるための必然としてこんなドラマがあったかと思うと、場合によっては主人公をちょっぴり羨ましく思うかもしれない。思えばどこの世界でも父母となる前は男女なのであり、その知られざる熱烈な恋愛模様を垣間見るのはこそばゆくもあるのだが、ほろ苦くも甘酸っぱい父(と母)の恋物語を目の当たりにするのは心地の悪いものではない。 物語が良過ぎて、あるいは日記の中の父が実直過ぎるが故に官能的には今少しの物足りなさも感じるのだが、途中から官能小説であることを幾分忘れて読み耽ってしまったことを思えば今回は致し方なしとしたい。むしろ、直接的な官能描写を控えた一般小説として出版されても上質な作品だと思えてならない。

DSK