まるでダメ男じゃん! の商品レビュー
まえがきに、「書評」でも「評論」でもないと書かれている。その通り、ダメ人間や奇人変人が大好物という自分の趣味に貫かれていて、こういう読み方もアリだという愉しさいっぱいの一冊だ。 古今東西の名作に登場するダメ男がバッサバッサと斬られる。その痛快さは期待通りだが、主人公がどうしよう...
まえがきに、「書評」でも「評論」でもないと書かれている。その通り、ダメ人間や奇人変人が大好物という自分の趣味に貫かれていて、こういう読み方もアリだという愉しさいっぱいの一冊だ。 古今東西の名作に登場するダメ男がバッサバッサと斬られる。その痛快さは期待通りだが、主人公がどうしようもないダメなヤツであっても、いやむしろそれだからこそ、小説として素晴らしい作品がある、という豊崎さんの「見る目」に感嘆しきりであった。 たとえば「舞姫」。高校の国語教員だったので、これは三年(文系)現代文の定番教材として何度も授業で読んだ。主人公の手前勝手ぶりはトヨザキ社長も罵倒する通りであるけれど、いやなんとも繰り返し読むにつけ、惹きつけられてやまない魅力をこの小品には感じた。しかし、大方の同僚のセンセ方には不評で、中には「こんなつまらん男の話をなんでわざわざ授業でせにゃならんか」と憤る人もいた。いやいや、そういう倫理的な読み方ってそれこそつまらんでしょ。それじゃなにか、高潔な立派なお方が登場するお話をありがたく読むのが国語なのか?などと思ったものだった。思ってただけですが…。 トヨザキ社長が「自分でもびっくり」しつつ「小説自体には感心してしまった」と書いていて、でしょー!と溜飲が下がる思いでありました。本当に文章の美しさといったらないし、ダメな人豊太郎の苦悩や弱さには「真実」がある。やはり「舞姫」は素晴らしい。 中上健次や西村賢太の作品に登場する、作者の分身と言える男にも、豊崎さんは可愛げや人間の真実を見る。私はこういうDV男には一片の共感も抱けないので、どちらも完読できたことがないのだが、豊崎さんの言わんとするとことはわかる。読む気にはやはりならんけど。 そしてそして、一番なるほど!と膝を打ったのは、「ガラスの動物園」に出てくる一見やさしげなジムが実はダメオ君だという指摘。うーん、「ガラスの動物園」はずいぶん前に読んだきりだけど、これは読み直してみなくちゃ、と思わせられた。他にも読んでみようかと思ったものが複数。ユニークな読書ガイドになっている。
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あまりにも多様な「ダメ男」を挙げようとするあまり、無理のある回もなきにしもあらずですが(『にんじん』の挿絵だとか、そもそも連続殺人鬼が主人公の『アメリカンサイコ』なんかはかなり厳しい)、たぶん一生読まないであろう近松秋江や川崎長太郎の小説のダメ男っぷりはすごくて笑えた。いやー日本...
あまりにも多様な「ダメ男」を挙げようとするあまり、無理のある回もなきにしもあらずですが(『にんじん』の挿絵だとか、そもそも連続殺人鬼が主人公の『アメリカンサイコ』なんかはかなり厳しい)、たぶん一生読まないであろう近松秋江や川崎長太郎の小説のダメ男っぷりはすごくて笑えた。いやー日本の私小説はダメ男の宝庫ですよね。むしろそこに焦点をしぼってもよかったくらいでは。 個人的には、小説におけるダメ男の分類は2種類でいいかと思っています。殺意わいちゃう系のサイテー男と、常識をはるかに超越してダメがブラックホール化しているような男。『舞姫』の主人公は前者、『猫と庄造と二人の女』の庄造さんは後者です。やはり味わい深いのは後者であり、そっち方面のダメ探求なら、私もぜひ参加したいところです。 この類型にははまらないゴンブローヴィチの『フェルディドゥルケ』は、本書でいちばん読んでみたいと思わせる作品でした。
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