天体建築論 の商品レビュー
ペーパーアーキテクト(紙上建築)なるものを初めて知った。 1910~20年代のロシアでは、(建築家を含む広い意味の)「芸術家」の役割は、社会全体のあるべきデザインを示す事だったらしく、建築家はとくに期待される責務が大きかったそうだ。レーニン・マルクス主義の、すごく純粋な理論的な社...
ペーパーアーキテクト(紙上建築)なるものを初めて知った。 1910~20年代のロシアでは、(建築家を含む広い意味の)「芸術家」の役割は、社会全体のあるべきデザインを示す事だったらしく、建築家はとくに期待される責務が大きかったそうだ。レーニン・マルクス主義の、すごく純粋な理論的な社会設計思想をもとに、それを実際の物理的レベルに落とし込むアイディアを出して、実際に作っていくための設計案をどんどん出していくことが期待された。理念ありきで、そこから社会を観念レベルから物理的インフラレベルまでトップダウンで設計していく。このような思想を構成主義と呼ぶそうだ。 この構成主義の極北を行く孤高のペーパーアーキテクトが本書の主人公であるイワン・レオニドフ。とにかくかっこいい。レーニン研究所とかマグニドゴルスク都市計画とか。いろいろ本書の中で難しいこと言われてるけど、そういうの置いといて、とにかくかっこいい。もうそれだけでいいんじゃないかな。 しかしレオニドフの作品(あるいは構成主義)にはひとつ問題があった。分かりづらさだ。 「レーニン研究所」は、どうみても直角に交わった定規に風船が結わえられてるだけにしか見えない。これが「建築」に、それもレーニンの名前を冠するだけの社会的意義を期待される建物にとってふさわしいのかどうか、分かりづらすぎて判断付かない。見る人によっては、インテリ特有の鼻持ちならない尊大さすら感じ取ってしまうかもしれない。 そのような「インテリ」的な点が、レーニンに続くスターリンによって批判され、構成主義は後退していった。構成主義が退場した後、出てきたのは「スターリン様式」と「社会主義リアリズム」。 さらに、スターリンの意向に沿う建築物を作らせるために既存の建築士の協会は解体され、あらたな御用建築士たちの協会として再構築された。 スターリン様式は、とにかくスターリンのでっかい像を立てておいて、古代ギリシャや古代ローマ的な古典的様式でいろどり、大変わかりやすい形でスターリンの権威を表象する、というようなものだったようだ。もうダサくなること確定な設計思想だ。 とくに「スターリン宮殿」(自分の名前を建物につけちゃう時点でもうなんかいろいろと残念)の設計過程はとても象徴的だ。何度も何度も「党」からの指示でデザインコンペがやり直されて、最初は建築家の自由な発想によるすごいかっこいいものだったのが、どんどん党の意向が押し付けられて、最終的にとんでもなくダサいものになっていく過程はただただ残念だ(とんでもなくどでかいタワーの上に、これまたとんでもなくどでかいスターリンの像を乗っけるというもの。400メートルを超す高さで、スターリン像は雲の上に達してしまい、かすんで見えない。おまけに、結局は資材不足で建築は中断、中止されてしまった。)。 「スターリン様式」でググるとモスクワ大学が代表例として真っ先に出てくる。ちなみにストⅡのザンギエフはモスクワ大学卒業生らしい。ハラショー、ザンギエフ。 虚栄心と権威主義の塊であるスターリン様式勃興の一方で、建前としてはプロレタリア階級に根差した非観念的(リアリズム)な芸術運動も勃興した。社会主義リアリズム。ざっくりとした特徴としては、北朝鮮の将軍様と民衆との触れ合いを描いた絵画的な感じ。 どっちもくそダサい。 構成主義の頭のいい感じは、あれはあれで鼻につくし、続く社会主義リアリズムもスターリン様式もダサくて残念だ。 さて、戦後にフルシチョフがスターリン批判を行い、スターリンの権威はソビエトから脱臭されていくわけだが、はたしてスターリン様式のあとにどんな芸術運動が出てきたのだろうか。あるいは、そういう運動とか流れ的なものは出なくなったんだろうか。20世紀後半以降の展開が気になった。
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アーキテクトは時代の最前線(アヴァンギャルド)において何をすべきか レオニドフはロシア革命後のロシア・アヴァンギャルド運動において活躍しました。そのレオニドフから「新たな時代の、新たな構想力」について学べることとは何か。第一に、「新たな世界を作るためには、まず世界を新しく見るた...
アーキテクトは時代の最前線(アヴァンギャルド)において何をすべきか レオニドフはロシア革命後のロシア・アヴァンギャルド運動において活躍しました。そのレオニドフから「新たな時代の、新たな構想力」について学べることとは何か。第一に、「新たな世界を作るためには、まず世界を新しく見るための視点を手に入れなければならない」ということ。第二に、「新たな世界を構想するには、旧習やノスタルジーといった『重力』に囚われることなく、軽やかな『無重力』の想像力を獲得しなければならない」ということ。 未来構想に携わる人、広い意味での「デザイナー」や「アーキテクト」にとって、レオニドフのアーキテクト像--その著者(本田氏)による解釈--は、なんらかの示唆になりうるでしょう。
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