瀬戸内海のスケッチ の商品レビュー
この装丁を見ると現代の作家さんの本のようにみえるが、黒島伝治さんは1898年から1933年に生きた人である。 小豆島の生まれで、この作品集の中にも島の農民たちの生活を描いた作品が収められている。 壷井榮の夫、壷井繁治と同村である。 黒島伝治さんの作品は主に「農民もの」と「シベリ...
この装丁を見ると現代の作家さんの本のようにみえるが、黒島伝治さんは1898年から1933年に生きた人である。 小豆島の生まれで、この作品集の中にも島の農民たちの生活を描いた作品が収められている。 壷井榮の夫、壷井繁治と同村である。 黒島伝治さんの作品は主に「農民もの」と「シベリアもの」に分けられるらしい。 この作品集には「シベリアもの」はひとつしか入っていない。 黒島さんの「シベリアもの」をこの本でもう少し読みたかった。 この本に出会うまで、私は黒島伝治という作家さんを知らなかった。 この装丁は私に何となく俳句や詩の人を思い浮かばせたから、片山廣子さんのような感じかと勝手に想像していた。 しかし読んでみると全然違った。こういう作家さんをこれまで読んだことがなかったようにも思った。 自然主義らしくありのままを描いた作品で、何というか、作り物でないリアルな現実がそこにあった。 リアルな現実というのは、いじめられっこが救われたり、貧乏で醜い人間こそが善人だったり、優しさに満ち溢れていたり、しないということ。 いじめられっこはずっといじめられるし、貧乏で醜い人間こそ卑しくしたたかでいやらしい性格だったり、善人が馬鹿を見る結果になったり、貧乏人は貧乏人のままなのである。それがリアルな現実なのだ。 だから、読んでいると変な気分になる。 本なのに救われず、ずっしりと現実というものがのしかかってくるのに、黒島さんの文章は重くなく、暗過ぎず、まさに装丁のごとく瀬戸内海の美しさがあるから不思議な気持ちになる。 貧しい暮らしが、報われない善人が、愛おしく感じる。 自分に嘘をつかず、見栄を張らず、自分らしく、自分に見合った場所で生きる。それが幸せというものなのだと教えてくれる。
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