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ジャン=ジャック・ルソーの政治哲学 の商品レビュー

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2014/03/08

ルソー研究をリードする著者による日本講演を論文集として編纂したもの。とはいえ、表題の通り、ルソーの政治哲学の中心概念(一般意志、共和国)が本書に収められた論考の中心テーマである。序章は哲学史の一書のルソーの項目を改変して、ルソーの全体像(啓蒙の「異端者」)を要約している。第一章か...

ルソー研究をリードする著者による日本講演を論文集として編纂したもの。とはいえ、表題の通り、ルソーの政治哲学の中心概念(一般意志、共和国)が本書に収められた論考の中心テーマである。序章は哲学史の一書のルソーの項目を改変して、ルソーの全体像(啓蒙の「異端者」)を要約している。第一章から第四章までは、ルソーの政治哲学の論理、概念の生成過程が問題となる。まず、近年盛んな「共和主義」復権の取り組みに対して、ルソーが提示した「共和主義」を浮き彫りにし(人民による立法主権、主権者と政府の区別、自律的自由)、「複数の共和主義」像を提示しようとしている。それから、一般意志概念の生成過程を『エコノミー・ポリティック論』本文と草稿にまで遡り、ディドロの一般意志というタームの利用、概念レベルでの改変を綿密に跡づけている。そしてこの一般意志概念を過度に合理主義的に解釈したり、過度に情念的なものとして解釈したりする傾向に対して、法律を決定する一般意志、および政治体の情念の表出としての「世論」という区別を読み取ることによって、ルソーにおける「世論」概念の重要性を指摘している。それから、完結することのなかった『戦争法の諸原理』から、主権者としての国家(シテ)と力としての国家(ピュイサンス)という政治体の二重の本性をルソーが想定していたことを明らかにしている。第五章は、革命期の政治家がルソーをどのように理解したかについて、ジャン・ドブリという政治家の演説を材料として、法律と世論の関係について注意を喚起している。最後、第六章で扱われるのは『孤独な散歩者の夢想』「第十の散歩」であり、文学作品として受容されてきたこの著作においても、ルソーの構想する「哲学」、自己の生との関連で物事を論じる学問としての哲学のあり方が示されることになる。各章とも、講演をもとにしているがゆえに、テーゼや論証が極めて明確であり、しかも従来のルソー解釈に対する明確なアンチテーゼになっている。しかも、日本における近代フランス思想研究の第一人者たちが各章に解題を付しており、その点でも極めて親切な構成になっている。

Posted byブクログ