魂をゆさぶる歌に出会う の商品レビュー
現代のアメリカのポップカルチャーを牽引するのは、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人たちが虐げられながらも手放さなかった独自の文化に由来するものばかり。アフリカン・アメリカンが作りだした歌や物語の裏にある生き延びるための思考法を学ぶジュニア新書。 先に後藤護の『黒人音楽史...
現代のアメリカのポップカルチャーを牽引するのは、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人たちが虐げられながらも手放さなかった独自の文化に由来するものばかり。アフリカン・アメリカンが作りだした歌や物語の裏にある生き延びるための思考法を学ぶジュニア新書。 先に後藤護の『黒人音楽史』を読みはじめたのだが高度な話が多く、基礎的な知識が足りないので補助線になる本がほしくて手に取った。結果としてこの本はぴったりだった。 現代の目からはアウトローに見える昔話やブルーズの歌詞が、白人の論理から逃れて生き延びるための術であったこと。キリスト教に改宗し敬虔な人も多いが、やはりアメリカにおけるキリスト教は白人を救う宗教であって、黒人は「罪人」を自称し悪魔にシンパシーを感じていたこと。ゴスペルの父と呼ばれ、黒人で初めて音楽の著作権を管理したトーマス・ドーシーや、弱き者のペルソナを被ったブルーズを別の次元へ進ませたロバート・ジョンソンのこと。 R&Bの男が受け身すぎるというのはラジオ「RHYMESTER 宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の名物企画「R&B馬鹿リリック大行進」などでも話題になっていたけど、黒人男性が白人社会でまともな職に就くのは難しく、家政婦などの仕事がある女性が家計を支えていたせいだと説明されていたのは今まで聞いたなかで一番説得力があった。家計を支える女にフラれる=死、という式が儚すぎて笑ったけれども。 日常と死の近しさ、そして暴力との近しさが彼らの表現を過激にしていく。もちろん暴力を奮われる側、理不尽な死を強いられる側だったからこそフィクショナルな世界でそれを転覆しようとしたのである。やがてその方法論はさまざまなマイノリティたちの共感を得て、レベルミュージックからポップミュージックに変わっていった。だがグラミーでの黒人アーティストの扱いを思うと、やっぱり今でもレベルミュージックなのだろう。
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〇岩波ジュニア新書で「学校生活」を読む⑥ ウェルズ恵子著『魂をゆさぶる歌に出会う』(岩波ジュニア新書、2014) ・分 野:「学校生活」×「英語科」 ・目 次: はじめに 1章 黒人文化の背景 2章 動物民話 3章 ジャックの物語―ワルこそヒーロー― 4章 ト...
〇岩波ジュニア新書で「学校生活」を読む⑥ ウェルズ恵子著『魂をゆさぶる歌に出会う』(岩波ジュニア新書、2014) ・分 野:「学校生活」×「英語科」 ・目 次: はじめに 1章 黒人文化の背景 2章 動物民話 3章 ジャックの物語―ワルこそヒーロー― 4章 トウモロコシの皮むき歌―自由になりたい― 5章 ハンマーソング 6章 黒人霊歌とゴスペルソング 7章 ブルーズ―ゆううつといかに距離をおくか― ・総 評 本書は、ゴスペルソングやブルーズといった「黒人音楽」について、その文化のルーツを歴史的に紐解いていった本です。著者は立命館大学の教授で、詩や歌といった“声の文学”を研究している人物です。 アメリカにおける黒人たちは、長らく奴隷として扱われ、奴隷制度が廃止された後も、人種差別にさらされるなど、今なお過酷な環境に置かれている人がたくさんいます。そんな彼ら(彼女ら)が、厳しい人生を生き抜くために活用したのが“歌”や“踊り”でした。この本を読んで面白いなと思った点を、以下の3点でまとめます。 【POINT①】「Bad」は「Good」?――黒人特有の価値観について 一般的に、仕事をサボったり、言い逃れをしたりすることは「悪い(Bad)」行動だと評価されます。しかし、奴隷として常に命の危機にさらされていた黒人たちにとって、そうした行為は、今日を生き延びるための「良い(Good)」行動だと考えられていました。即ち、主人(強者)と価値観を共有している限り自由になれない黒人たちにとって、主人に都合がよいことは自分にとって不都合であり、自らの知恵と団結によって、いかに彼らを“出し抜くか”が重要だったのです。このように、アメリカの複雑な社会背景が、単純な「Bad」という言葉に、黒人特有の意味の二重性を与えたと指摘しています。 【POINT②】信仰による希望や勇気を呼び起こす――黒人霊歌・ゴスペルソング 黒人奴隷は、反乱を防ぐため、皆で集まって話したり楽しんだりすることは禁じられていました。ただし、キリスト教の集会だけは制限付きで許されていたため、そこで「黒人霊歌」や「ゴスペルソング」が歌われました。こうした歌は「天国を幻想し気持ちを現実の苦痛から遊離」させるものであったり「苦痛を背景として輝く信仰の歓喜」をもたらしたりするものでした。なお、映画でも有名な「スタンド・バイ・ミー」(そばにいてほしい)も、元はゴスペルソングでした。過酷な現実を生きていた黒人たちにとって、信仰する「主」は、弱者に寄り添う(Stand by me)慈悲深い存在だったと指摘しています。 【POINT③】失意や落胆のうめきを再現する――ブルーズ 黒人音楽の1つである「ブルーズ」の歌詞を見ると、その内容は不道徳な話題が多く、人間の現実があからさまに表現されています。そこで歌われる主人公は「やられるばかりの弱者」で「泣かずにはいられな」い日々を送っています。一方で、自らに降りかかる苦難を「トラブル君」と呼んだり、自分の辛い状態を「ブルーズ君」というキャラクターにしてしまったりします。その背景には、現実の苦難を「自分から取り出して、壁にかけて、ながめて、話しかけて、茶化して、歌ってしまう」ことで、そうしたブルーズ(ゆううつ)から距離を取るという、黒人たちの処世術があったと指摘しています。 本書では、過酷な環境で生きていかざるを得なかった黒人たちが、音楽や踊りを通じて「抑圧や心的外傷や絶望を生き抜く技」をいかに習得していったのかという歴史を知ることができます。 信仰心を基に「希望や勇気」を歌う黒人霊歌(ゴスペルソング)と日常の「失意や落胆のうめき」を歌うブルーズ――その方法は対照的ですが、改めて“歌”や“踊り”の持つ力の大きさを感じることができます。いつの日か、私たちも何か大きな困難にぶつかった時、彼ら(彼女ら)の「技」が参考になるのではないでしょうか。 (1382字)
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「スタンド・バイ・ミー」 試練のただ中でそばにいてほしい 精一杯のことをしながら 友人に誤解されても 私のすべてを知るあなたに そばにいてほしい イエスよ 谷間の百合よ そばにいてほしい ブルーズ ロバート・ジョンソン ストレートに心情をうたう ペルソナに同化する
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どうして「bad」が「good」としてとらえられるときがあるのか、どうして強い正義の神よりも慈悲深い救い主を求めたのか、ということを歴史的背景を理由に分かりやすく説明されていて「目からウロコ」でした!決して良い話ではないのですが…まさに今(’20)アメリカで起きている黒人を中心と...
どうして「bad」が「good」としてとらえられるときがあるのか、どうして強い正義の神よりも慈悲深い救い主を求めたのか、ということを歴史的背景を理由に分かりやすく説明されていて「目からウロコ」でした!決して良い話ではないのですが…まさに今(’20)アメリカで起きている黒人を中心とした抗議行動を考えるヒントになるのではないかなぁ…
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アメリカ黒人音楽の歴史の本かと思って読み始め、まずマイケル・ジャクソンが出てきたので、「そりゃ、ジュニア新書だもん、中高生でも知ってる超有名人から始めるよな」なんて安心しながら読んだのだが。 結果から言うと、私が好きだったアレサ・フランクリンとか、ディオンヌ・ワーウィックとか、ア...
アメリカ黒人音楽の歴史の本かと思って読み始め、まずマイケル・ジャクソンが出てきたので、「そりゃ、ジュニア新書だもん、中高生でも知ってる超有名人から始めるよな」なんて安心しながら読んだのだが。 結果から言うと、私が好きだったアレサ・フランクリンとか、ディオンヌ・ワーウィックとか、アル・グリーンとかまでは、到底辿りつけないほど、根っこから書いてあったのだった。私が知ってるブラックミュージックはせいぜい枝程度だったということがよく分かった。 アフリカから奴隷として連れてこられ、過酷な労働を強いられ、家畜同然の扱いを受け、逆らえば、鞭打ち。殺されても、殺した白人は何の罪にも問われない。そういった事は、本でも読んだし映画でも見たのではあるが、音楽を知ることで、彼らの「魂の叫び」としか言いようのない思いが伝わった。歌は思いを伝えるものではあるが、あまりあからさまだと白人にバレるので、独特の言い回しや、裏の意味が生まれた。 黒人音楽を理解するために、そういった歴史だけでなく、黒人に伝わる民話(もとはグリム童話やイソップ寓話だったりするが、彼ら独自の解釈やエピソードが面白い。岩波少年文庫『ウサギどんとキツネどん』というタイトルで読んだ記憶がある。)、具体的な歌詞と対訳まであるので、ロバート・ジョンソン(1911~1938)で歌と歌手の紹介は終わっている。導入のマイケル・ジャクソンや「スタンド・バイ・ミー」などは別として、「漕げよマイケル」以外は知らない曲ばかりで、検索して聴きながら読んだ。 本当は本ではなく、講演を聴きながら、映像を見たり、音楽を聴いたりして理解するのがいいのだろうけど、それでも、読んで良かった。音楽の本というよりは、アメリカ黒人音楽の「ルーツ」について書いた本だった。まあ、サブタイトルにそう書いてあったので看板に偽りがあるのではない。 スティービー・ワンダーやレイ・チャールズみたいに最近の歌手についての記述はないが、20世紀初頭のブルーズミュージシャンに、盲目の人が多かったのは、妊娠中に栄養が足りなかったから、というのもショックだった。 今流行りのヒップホップなんかとの繋がりがもうちょっと書いてあると、今のブラックミュージックを聴いている若い人もわかり易かったのではないかとは思う。 この後公民権運動など差別と戦い、音楽も変わっていくので、現代ブラックミュージックについてのジュニア新書もあったらいいな。
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中高生向けの本のため、内容の掘り下げは物足りないがとても読みやすくてザッと理解できる。 掘り下げは他の書籍や方法で。 奴隷制度の辛い歴史があり、そしてまだ差別も横行していることを考えると、 そこから生まれた素晴らしい音楽や文化を享受させてもらってる立場としては複雑な気持ちになっ...
中高生向けの本のため、内容の掘り下げは物足りないがとても読みやすくてザッと理解できる。 掘り下げは他の書籍や方法で。 奴隷制度の辛い歴史があり、そしてまだ差別も横行していることを考えると、 そこから生まれた素晴らしい音楽や文化を享受させてもらってる立場としては複雑な気持ちになったりもしますが、 ファッションではなく、歴史も踏まえた上で楽しんでいきたいと思います。 ブルース、ゴスペルの成り立ちや、あと、民話の話も興味深い。
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アメリカ黒人音楽を俯瞰する。内容は軽いが、黒人文化の持つ精神性、良い悪いで悪いが良いという前提条件がきちんとわかったことだけでも十分な書籍。
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R&Bを一番よく聴いてたのは90年頃だったろうか。ヒップホップも聴いたし、70~80'sのソウル・ファンクや60'sのジャズもかじった。なのでブラックミュージックにはかなり親しんでいるほうだと思う。 にも拘らず、アメリカ黒人文化の根幹に何があるのか?...
R&Bを一番よく聴いてたのは90年頃だったろうか。ヒップホップも聴いたし、70~80'sのソウル・ファンクや60'sのジャズもかじった。なのでブラックミュージックにはかなり親しんでいるほうだと思う。 にも拘らず、アメリカ黒人文化の根幹に何があるのか?ということが殆ど何もわかってなかった。知らなかったことがたくさんあった。ブラックミュージック好きはマストな一冊だと思う。 一番インパクトのあるトピックは、bad はなぜ「良い」という意味に転じるのか?だろう。そういえば、かつてRude BoysなるR&Bグループがあったけど、このグループ名もbadと同じようなニュアンスだったのだろうか?ギャングスタラップの下品さや凶悪さについてもbadということを考えずにはいられない。また、自らをNiggerと呼ぶのは、ギャングスタラップの中から出来てきたものと思ってた。昔からだったとは恥ずかしながら知らなかった。"Swing Low, Sweet Chariot"について解説してあるのはうれしかった。ここではない何処かへ行く乗り物は、馬車からP-funkで宇宙船になり、G-Funkで64年式インパラ(Rollin' im my 64!)になるのだなあ。 過酷な日々をどうやって生き抜くのか?というヒントが黒人文化の中にはある。現実の中で自意識を覚醒させたままでは生きるのが苦しすぎる。薬や酒に頼らず、現実の中の自意識からどう距離を取るのか?時にはユーモアのある物語で、あるいは自分に都合のいい妄想で、そして信仰で。そして歌とダンス。リズムとコール&レスポンス。日本の被差別部落の中にも似たような文化があることを思い出した。 例としてマイケル・ジャクソンを挙げるのはわかりやすくて良いと思う。しかし欲を言えば、もっと今の音楽ともリンクして解説してほしかったし、公民権運動との関連についても読みたかった。ま、それは別の本を読むべきかな。
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奴隷解放で黒人は幸せになったと単純に考えていたが、その理解が粉砕された。アフリカ系のオバマが大統領になったということがいかに偉大であるかということを改めて感じた。差別が解消されるというのは長い時間、想像以上に長い時間がかかるということを、改めて実感した。
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アメリカ黒人がつくりだした文化、特にこの本では歌を中心に、奴隷制時代までさかのぼってコンパクトにまとめている良書です。 奴隷制時代、歌は、仕事や遊びを通して伝承されるもので日常のつらさを笑いやハッピーエンドに変換するものであり、そのあとに生まれるゴスペル、ブルースなどの音楽と比較...
アメリカ黒人がつくりだした文化、特にこの本では歌を中心に、奴隷制時代までさかのぼってコンパクトにまとめている良書です。 奴隷制時代、歌は、仕事や遊びを通して伝承されるもので日常のつらさを笑いやハッピーエンドに変換するものであり、そのあとに生まれるゴスペル、ブルースなどの音楽と比較しています。
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