奇跡のはじまり の商品レビュー
『奇跡のはじまり ある音楽家の革命的介護メソッド』。この本のタイトルは、編集者さんがつけたと聞きました。著者のみつとみ俊郎さんは、気に入っているようなので問題はないのですが、一読者の私の意見を言わせていただければ、「奇跡」「音楽家」「革命的」「介護」「メソッド」という思い入れたっ...
『奇跡のはじまり ある音楽家の革命的介護メソッド』。この本のタイトルは、編集者さんがつけたと聞きました。著者のみつとみ俊郎さんは、気に入っているようなので問題はないのですが、一読者の私の意見を言わせていただければ、「奇跡」「音楽家」「革命的」「介護」「メソッド」という思い入れたっぷりの言葉の羅列が、不特定多数の読者をして、この本の頁をめくることを躊躇させ、遠ざけさせているのではないか、と危惧しています。 会社員であれば、リタイアしたであろう団塊の世代の日本人男性が、突然の妻の脳溢血にあって、まずおろおろして、病気そのものを調べ、日本の医療制度と向き合い、ついには音楽家という自らの人生そのものと向き合う中から、妻への介護の在り方に目覚めていく、その過程が、こまやかに、平易な、むしろエッセイ風につづられています。 著者は、プロの音楽家であると同時にカルテジアンとでもいえるほど、物事を論理的に、妥協せず突き詰めて考察する性格の持ち主で、その意味では、「奇跡」などという言葉からは最も遠い存在だと私は思っています。「奇跡」は上から「恩寵的」に与えられるものでありますが、著者は逆に、あの手この手、自らの「知」を総動員して、妻の病気に立ち向かおうとしています。この本のエビソードの数々は、病気との闘いのさわりでしかないのかもしれません。 でも私には、あらん限りの人知の果てに、かすかに「祈り」の音が、まだ言葉にもなっていない「祈り」の音が聞こえます。 そんな感想を持ちながら、読了しました。
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