「労働」の社会分析 の商品レビュー
ミリアム・グラックスマン『「労働」の社会分析 時間・空間・ジェンダー』法政大学出版局、読了。本書は1920年代以降、ランカシャー地方の女性労働者が有償労働と無償の家庭内労働の間をどのように行きつ戻りつしながら生きたのか、その生きられた経験を活写する女性労働史研究。著者の綿密な聞き...
ミリアム・グラックスマン『「労働」の社会分析 時間・空間・ジェンダー』法政大学出版局、読了。本書は1920年代以降、ランカシャー地方の女性労働者が有償労働と無償の家庭内労働の間をどのように行きつ戻りつしながら生きたのか、その生きられた経験を活写する女性労働史研究。著者の綿密な聞き取りは、彼女たちの労働と生活の息吹を見事に浮かび上がらせる。本書は、女性が担ってきた広範囲にわたる労働をとりぼこすことなく、トータルに浮かび上がらせようとする野心的な試みであり、そのことに見事に成功した一冊だ。 なぜ1920年代か。この時代にオートメーションとしての現代が確立するからである。ラインで製造された商品がミドル・クラスに配分され、それからしばらくして彼女たちの手元にまわってくる。商品経済と家庭経済が、有償労働と家庭内労働が緊密な関係を警世するにいたる大変動期である。 なぜ、ランカシャーか。新興産業が勃興したイングランド南東部の周辺地域こそ、伝統的産業(織物業)が衰退期の地方であり、労働者階級女性間における格差をも浮き彫りにするためである。 本書が描く女性たちは遠くへだった人たちに思えないのが非常にしさてきである。地盤産業(製造業)の衰退、非正規雇用の拡大、雇用形態の多様化。流動化が展開する現代とうり二つと言ってよい。1920年代に臨時雇い的女性たちは、インフォーマルな労働をいくつもかけもちし、細かい収入をつなぎ合わせて生きてきた。同じ姿が繰り返されている。 本書は、女性労働者たちの労働と生活の息吹を見事に浮かび上がらせる一冊だが、それは同時に見事なオーラル・ヒストリーの記録でもある。女性労働・女性労働史研究だけでなく、ジェンダー研究、フェミニズム研究としても読み応えのある一冊である。
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