小さな矢印の群れ の商品レビュー
・要約 第1章では、様々な事例を挙げて人の動き、風や水、光、音、熱などの五感で感じられるもの、構造物の部材の中を流れる力などは〈小さな矢印〉で表現することができると述べている。しかし、20世紀は急激な人口増加によって量とスピードが求められ、社会全体で〈大きな矢印〉が時代の空気を...
・要約 第1章では、様々な事例を挙げて人の動き、風や水、光、音、熱などの五感で感じられるもの、構造物の部材の中を流れる力などは〈小さな矢印〉で表現することができると述べている。しかし、20世紀は急激な人口増加によって量とスピードが求められ、社会全体で〈大きな矢印〉が時代の空気を代弁していたと指摘する。 第2章では、使われ方によってその場所の呼び方はその都度変わる空間を〈白の空間〉、機能あるいは使われ方と空間が1対1で対応している空間を〈黒の空間〉と定義する。そして、現代の建築の大半は〈黒の空間〉が大部分を占め、それが空間を「窮屈」にしていると指摘。〈小さな矢印〉=Fluidの自在に流れる場所を建築や都市の中に獲得するためには、〈白の空間〉を獲得する必要があると提案する。 第3章ではミースの建築を「ミース・モデル」=「密閉型」とし、外と絶縁することによって立地や環境の影響を受けることのない空間について言及する。密閉型は空調など、環境を人工管理するため、室内の温湿環境の快適さは保たれることから20世紀には量産されたが、日本などの室内よりも外が気持ちいい快適な季節をもち、歴史に育まれた知恵をもつ場所に「ミース・モデル」を続けていいはずがないと指摘する。 第4章は、実際のプロジェクトを例に挙げ、「開発」ではなく、〈小さな矢印〉の読み込みと編集の積み重ねで〈耕す=Cultivateする〉ように建築する考えを語る。 第5章では、自然や集落、都市の関係性を探求し、現代の建築がどうあるべきかを考察する。建物や都市の計画において、技術的に可能なことが増えた今こそ、風や光、人々の活動といった「流れ」を考慮したデザインを取り入れるべきだと主張している。 第6章では、20世紀に獲得された空調された建築空間と異なって、雨風もあれば寒暖もある、気候や天気に支配された場を雑木林と定義し、建築空間を雑木林的に作ることを提案する。 第7章では、建築空間における新しいアプローチを探求する。ここでは、「白の濃淡」という概念を通じて、建物の空間がどのように感じられるかを示しており、単純な白い空間であっても、光や影、風などの要素が加わることで、変化し続ける「濃淡」が生まれる。この章は、建築が固定されたものではなく、時間や環境の影響を受けて常に流動的に変化するものだという考え方を強調している。 ・感想 第1章から第7章までを読み進めていくことで、著者の小さな矢印という考えから白と黒、雑木林的空間といった考えに至った流れをつかむことができ、読みやすかった。 空間を外部とつなげること、これは多くの建築家が語ってきたことであり、それによって無意識的にその理由を追求せずに自分の中にあった考えであった。著者は空間と外部をつなげることに関して、心地の良い季節があるのだから空調のような人工物ではなく、自然を利用するのが最適だろうという考えをこの本で強く語っており、これが空間と外部をつなげる一つの理由なのだと私の中にあった無意識の考えが確信に変わって腑に落ちた感覚があった。 また、著者は建築空間を黒と白に分け、白の空間を増やすべきだと言っている。著者のように黒と白という色付けをすることは、自分が設計するときにどれだけ自由な空間があるかを可視化することができる最適な手法であり、また、これからの建築の見方にも生かせると思った。
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著者である小嶋一浩は私の指導教員の師にあたる方であり、学生の私としてその思想を探りたく手に取りました。白と黒→小さな矢印→耕す建築→雑木林的建築と20世紀の作り上げたモダニズムの越えるための建築思想を常に発展させてきている様子が見て取れる。それぞれに挙げられる思想とそのきっかけと...
著者である小嶋一浩は私の指導教員の師にあたる方であり、学生の私としてその思想を探りたく手に取りました。白と黒→小さな矢印→耕す建築→雑木林的建築と20世紀の作り上げたモダニズムの越えるための建築思想を常に発展させてきている様子が見て取れる。それぞれに挙げられる思想とそのきっかけとなった様々なプロジェクトにトライアンドエラーで取り組む。小嶋さんの思想のみならず、彼を通して、建築の作り上げてきたモダニズムを環境的な側面や、都市計画的側面からも学べる一冊。 よかった点としては、上記に挙げた面のインプットがあるが、彼の建築にはあまり断面的な魅力などをあまり感じない。フォトジェニックであることを目指さないことによるかもしれない。小嶋さんはCFDを全面的に肯定をしていたが、小堀哲夫はCFDはあくまであたりをつけるのみで決定をできない、と批判的にも捉えている。各々の目的が異なるからかもしれない。小堀さんはオフィスに白と黒を持ち込んでいると言えるかもしれない。それぞれの建築家が目指す白、黒を扱い可能な言葉として取り出したことが彼の功績の一つかもしれない。
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大きな矢印とされている近代の量産型から、雑木林のように空間の領域が曖昧で機能が不確定な「小さな矢印」を孕んだ建築を目指すという、現代建築の新たなイデオロギーを提唱する小嶋さんの思考が詰まった本。 建築とその周辺のコンテクストとの相関関係という、現代では当たり前に意識づけられるよ...
大きな矢印とされている近代の量産型から、雑木林のように空間の領域が曖昧で機能が不確定な「小さな矢印」を孕んだ建築を目指すという、現代建築の新たなイデオロギーを提唱する小嶋さんの思考が詰まった本。 建築とその周辺のコンテクストとの相関関係という、現代では当たり前に意識づけられるようになった設計思想。そのプロセスを「矢印」というビジュアルで分かりやすく図示し、建築を一つの流れとして捉えている。 著者の小嶋さんの設計プロセスとして、一つの大きな模型(1/30とか)をひたすら壊しながら形を「検証」するというスタイルを確立しており、大きなスケールで建築を視覚的、感覚的に捉える事で効率良く深度ある建築プロセスを築いてると感じます。 建築を志している人ならば一度は読んだ方が良いかもしれません。特に大学一年生の時に読んでおけばよかったなあと思います。
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建築に対して流体力学的知見に基づいた建築のあり方を考えるキッカケ作りに良い本だと思います。CFD(computational fluid dynamics)数値流体力学的に導き出された風通しの良い家を模索してきた著者ですが、彼らがどんな人生を歩んで、どんな考えの基にこれを応用して...
建築に対して流体力学的知見に基づいた建築のあり方を考えるキッカケ作りに良い本だと思います。CFD(computational fluid dynamics)数値流体力学的に導き出された風通しの良い家を模索してきた著者ですが、彼らがどんな人生を歩んで、どんな考えの基にこれを応用してきたのか興味を持ちました。 この本を読んで強く思ったのは、もし将来、家族を持つとしたら、風通しの良い家で風通しの良い家族を作りたいです。 読みやすいです。
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