痴愚神礼讃 の商品レビュー
この作品は真面目くさった神学者や哲学者を風刺して、人間とはいかなるものかをユーモアたっぷりに描いています。腐敗した聖職者への批判も書かれており、よくこの作品をカトリック教会が許してくれたなと読んだ瞬間思ったのですが、案の定この作品はカトリックの禁書目録に入ることになったようです。...
この作品は真面目くさった神学者や哲学者を風刺して、人間とはいかなるものかをユーモアたっぷりに描いています。腐敗した聖職者への批判も書かれており、よくこの作品をカトリック教会が許してくれたなと読んだ瞬間思ったのですが、案の定この作品はカトリックの禁書目録に入ることになったようです。 巨大な出版業界がまだ存在していない段階にしてベストセラー作家として最高の地位にあったエラスムス。 その人気の源泉となった作品が『痴愚神礼讃』です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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最も印象にあるところは以下の部分である。 「『伝道の書』に戻りましょう。「空の空なるかな、すべて空なり!」と叫んでいますね。私の考えでは、人生は痴愚女神の戯れにすぎないということ以外の意味は、そこにないと思いますね。これこそまさに、「全地上は瘋癲(フーテン)に充つ」というキケロの...
最も印象にあるところは以下の部分である。 「『伝道の書』に戻りましょう。「空の空なるかな、すべて空なり!」と叫んでいますね。私の考えでは、人生は痴愚女神の戯れにすぎないということ以外の意味は、そこにないと思いますね。これこそまさに、「全地上は瘋癲(フーテン)に充つ」というキケロの讃詞をめぐって、私のために白石を投じてくれるものです。」p.169 痴愚神礼賛とは、わたしたちすべての人間の人生そのものなのだ。たとえば、立派なことをしている人もそうでない人も、幸福な人もそうでない人も、もちろんわたしも、いろんな人がいるけれど、みんな痴愚神礼賛者である。痴愚神礼賛が意味することは、「みんなダメ」ということだ。偶像崇拝(金銭や物)であっても、何か意味のありそうな大層なことでも、なんらかの狂気に酔わざるを得ない。 そこで、人生は痴愚神の戯れ、全地上は瘋癲に充つ、となるのだ。
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「自分の葬式のことを死ぬ前から決めておく人」や、「自分の力じゃないのに、知り合いの優れた部分を自慢してあたかも自分がすごいかのように語る人」を馬鹿馬鹿しいと批判しているところを見ると、これはエラスムス本人がかねてからおもっていた愚かなことを赤裸々に痴愚女神に語らせているのでは?と...
「自分の葬式のことを死ぬ前から決めておく人」や、「自分の力じゃないのに、知り合いの優れた部分を自慢してあたかも自分がすごいかのように語る人」を馬鹿馬鹿しいと批判しているところを見ると、これはエラスムス本人がかねてからおもっていた愚かなことを赤裸々に痴愚女神に語らせているのでは?と思った
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※このレビューにはネタバレを含みます
エラスムス。 確かにマイナー。訳者があとがきで嘆く通りです。世界史ではルターの宗教改革のくだり、そしてトマス・モア(『ユートピア』の著者)の友人というくだりで出てくる位ではないでしょうか。しかし一度読めば、本作が豊かなヘレニズム的教養の詰まった、それでいてユーモアに満ち溢れる作品であることがわかります。 ・・・ 中世きっての知識人エラスムスによる本作、一言で表現すれば、当時の世間と宗教界を批判する諧謔の書、であると思います。痴愚(アホ)の女神という架空の神を作り、彼女が自分がいかに偉大であるかを自画自賛・礼賛するというもの。 彼女が居るおかげで世界は楽しく回る。その彼女が従えるのが「ウヌボレ」「追従」「忘却」「怠惰」「快楽」「無思慮」「逸楽」「お祭り騒ぎ」「熟睡」という各々の神。 ルネサンス期とは言え中世という時代背景を考えれば本作のあけすけさと辛辣な表現は驚異的。 子どもが無知である、故にあれだけ純真で楽しそうなのだ。同様に老人も忘却の淵に沈みつつ子どもがえりする、故に幸せなのだ。結婚とは愚かさの象徴である。へつらい、冗談、お愛想、勘違い、ごまかし等に満ちている。結婚がうまくいくのは痴愚女神のおかげである。もし人に理性があれば、妻(夫)の本心や過去を暴き、結婚などは減ることだろう。修道士の怠惰、聖人崇拝のおかしさ(聖書からの逸脱)等々を挙げ、彼らもすべて痴愚のもとに居るのだ、と自らを礼賛します(私の書き方が下手過ぎて、なんだかシニカルな感がありますが、実際にはユーモアあふれる文面です!)。 内容と同等に(それ以上に?)素晴らしいのはやはり訳者沓掛氏の本作にかける意気込みだと思います。何しろ読みやすい翻訳。ギリシア・ローマへの深い造詣と愛情。ギリシア語表現をカタカナ表記にするという素敵なアイディア。注釈93ページ、解説・あとがき45ページ、合計138ページ(全体の4割)にも及ぶ手厚いサポート。解説もエラスムスの生涯と仕事を概観しまとまっています。ひょっとしたら初めに読むほうが良いかもしれません。 加えて。 表紙にもなっているボスの「愚者の船」(ルーブル美術館所蔵)ですが、これが見事に当時の世俗の堕落の様子を描いております。エラスムスが何を批判しようとしているのかはこの絵を見ればよくわかると思います。後世の絵に残るくらいですから謂わば相当に堕落した世の中だったのでしょう。 https://www.musey.net/20326 ・・・ 読後に考えたのは、日の当たらないエラスムスがどれほどのルサンチマンを感じたのか、ということ。司祭の私生児として生を受け、古典勉学に励むも宗教界から蔑まれ、聖書研究に立ち返るも世の教会は聖書から逸脱した行為に満ち、自分は異端に近い扱い。 本作も軽妙な筆致が時としてマジギレ気味になるあたり、沓掛氏の解説を読んだ後なら、たまに本心出ちゃうよね、と同調して読めてしまいます(笑)。 ヘレニズムの息吹が大いに詰まった本作、古代ギリシアと聖書を勉強したらもう一度読んでみたいと思いました。 古代ギリシア・ローマ、宗教改革、中世ヨーロッパ等に興味がある方にはおすすめできる作品です。
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この逆説に満ちた口の悪さがクセになる,この手の作品に対してはどうしても高評価を与えたくなる。口の悪さは痴愚女神のキャラクター付けに寄与しているのだが,相手がキリスト教となると作者の素が漏れている印象を受ける。最後までキャラクターを崩さないで欲しいところだったがしょうがない。内容と...
この逆説に満ちた口の悪さがクセになる,この手の作品に対してはどうしても高評価を与えたくなる。口の悪さは痴愚女神のキャラクター付けに寄与しているのだが,相手がキリスト教となると作者の素が漏れている印象を受ける。最後までキャラクターを崩さないで欲しいところだったがしょうがない。内容としてはキリスト教(あるいは教徒)の境界線に鋭く触れており,神学を考える上で重要性が高い。 言葉による変革を望んだ結果が時代からの孤立というのはなんとも皮肉なことだ。カトリックには禁書扱いされるわ,ルターに始まるプロテスタントからはぬるいと扱われるわ,でまあ散々だ。さすがに現代では,エラスムスの作品はより広く知られることとなり再評価されることだろう。真にキリスト教徒であろうとしたことがようやく分かりつつある。 解説よりメモ: ・エラスムスとラテン語,ルターとドイツ語・人文主義者との関わり,新プラトン主義に基づいた聖書研究・「格言集」出版・「痴愚神礼讃」の大成功・驚異の年1516年,ギリシャ語訳の「校訂版新約聖書」・「対話集」・ルターの宗教改革・キリスト教人文主義,孤立を深める・教皇ユリウス3世による全著書の禁書・友人モアを楽しませる意図・諷刺文学の流れ,ブラント「阿呆船」など・デクラマティオのパロディ・痴愚女神Moria・カトリック体制への批判,高位聖職者の堕落しきった生活
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世界史の教科書にも出てたし、ラテン語から直接訳してるみたいだし、あとがきをみたら、他の訳よりも自分の訳に絶大なる自信をもっているみたいだし、こういうのを読んだら教養が高まったりしちゃうのかしらん・・・と思って読んでみました。 全体的にユーモア感覚をもって書いてるし(後半の教会批判...
世界史の教科書にも出てたし、ラテン語から直接訳してるみたいだし、あとがきをみたら、他の訳よりも自分の訳に絶大なる自信をもっているみたいだし、こういうのを読んだら教養が高まったりしちゃうのかしらん・・・と思って読んでみました。 全体的にユーモア感覚をもって書いてるし(後半の教会批判とかはユーモアが薄れてきちゃったかも)、ギリシア・ラテンの古典からの引用などが多く、西洋の人文主義の厚さを感じさせる・・・というのがポジティブな感想。 あとはほとんどネガティブな印象なのですが、内容が、「はあ、ふーん」というもので、読みながらの感想としては、会話でいうところの生返事しかできませんでした。時代背景が違うからなのか、私に感受性が足りないからなのかわかりませんが、なぜこの本がそれほどもてはやされるのか、歴史的な文脈を越えて古典として読み継がれるべきとされているのかを感じ取れなかったのでした。 いや、悪くはない。悪くは。でも、特筆しておもしろかったところがなかったので、なんでなのかなあと思った次第です。 そういえば、「なんでだろう♪」とうたうネタがありますが、この前、道で、それを「なんでやねん♪」と歌いながら歩いている小学生たちがいました。どうでもいい話ですが。(2015年4月29日読了)
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はじめてのエラスムス 解説と注はかなりの充実度 訳者はかなり性格に癖のある人のよう ラテン語が全く読めないのが残念だが、是非ラテン語原典と大出訳も読んでみたい 対話集にも心惹かれる 内容としては、一気に書き上げて翌日見返すのが嫌なレポートのような感じ 最初は洒脱さが前面に出ている...
はじめてのエラスムス 解説と注はかなりの充実度 訳者はかなり性格に癖のある人のよう ラテン語が全く読めないのが残念だが、是非ラテン語原典と大出訳も読んでみたい 対話集にも心惹かれる 内容としては、一気に書き上げて翌日見返すのが嫌なレポートのような感じ 最初は洒脱さが前面に出ているのに、最後の方は自分の論をバンバン出していて痴愚神が割と行方不明 ただ、カトリックの側にこのような思考の人がいたことは驚きだし、やっぱりそう思うよなという気もさせられる
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よいよいよいよい、よ~~い!! 我、痴愚神をこそ仕えるものなり その他の神は知りませんというか、 わかりません。 ただ1~つ、己を神のようなものとして 取り計らえとばかりの雰囲気をかもしてくる輩ども には、ケイカイセヨ! あぁ、わからないものをわからないといえる このたま...
よいよいよいよい、よ~~い!! 我、痴愚神をこそ仕えるものなり その他の神は知りませんというか、 わかりません。 ただ1~つ、己を神のようなものとして 取り計らえとばかりの雰囲気をかもしてくる輩ども には、ケイカイセヨ! あぁ、わからないものをわからないといえる このたまらない開放感といい安堵感といい爽快感。 痴愚神様を崇拝させていただいているが故でございます 誠、有難うございます。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ルネサンス期の大知識人エラスムスが書いた戯文。痴愚の女神があらわれて、「うぬぼれ」や「追従」等の痴愚があるから人間は幸福だと展開する。人間の愚行を褒めながら痛烈に批判していく、巧みな言い回しの「褒め殺し」。高位の聖職者・教会を批判する後半は特に辛辣。 この本は当時のベストセラーになって、堕落した教会の権威を根本から揺り動かして、後のルターの宗教改革の下地を作ったらしい。言葉で人々を動かすやり方として、こういう方法もあるんだなあ。
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エラスムス(沓掛良彦訳)『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』中公文庫、読了。人間社会全般にわたる虚偽をウイットに満ちた饒舌なアイロニーで痛罵する風刺文学、待望のラテン語原典からの翻訳。必要なのは「外」からの変革ではない。強かに「内」から遂行するほかない。人文学の豊かな可能性を切り開く本...
エラスムス(沓掛良彦訳)『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』中公文庫、読了。人間社会全般にわたる虚偽をウイットに満ちた饒舌なアイロニーで痛罵する風刺文学、待望のラテン語原典からの翻訳。必要なのは「外」からの変革ではない。強かに「内」から遂行するほかない。人文学の豊かな可能性を切り開く本書は今こそ手にとるべき一冊。
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