豊乳肥臀(下) の商品レビュー
「一角獣ブラジャー大世界」がパワーワード過ぎる笑。 主人公が社会に翻弄され、泥道を這いずったり濃厚で黄金色な甘い汁をすすったりする物語。 彼自身が何か努力したり過ちを犯したりして転がる人生ではない。全ては戦争・革命の情勢や周囲の人間によるもの。彼はただ耐え忍び享受した。 その...
「一角獣ブラジャー大世界」がパワーワード過ぎる笑。 主人公が社会に翻弄され、泥道を這いずったり濃厚で黄金色な甘い汁をすすったりする物語。 彼自身が何か努力したり過ちを犯したりして転がる人生ではない。全ては戦争・革命の情勢や周囲の人間によるもの。彼はただ耐え忍び享受した。 そのため読後感も少し独特で、起承転結を味わったというよりはある一家の歴史を傍観した気分。司馬糧が少し気に入っていたが最期は賄賂爺になっちゃったのかな。 そして何と言っても、常につきまとうのは母親の姿だ。 どんなに悪態をついても、誰の子も育て上げた母。 纏足を引きずり吐いて喚いて棍棒を手にとって。 断章で更に彼女の人生が深められ、頭にこびりついて離れない。 男性は、いや人の子は皆豊乳肥臀から生まれ生涯忘れることはない。 老いていく母の姿には悲哀と共にうっすら感動を覚える。 中国社会の戦争から革命の時代。決して綺麗な物語ではなく読み返すことはないかもしれないが、あとがきも含めて読み応えのある本だった。
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なるほどこうやって終わらせるか。 あくまで絵巻物であり、叙事詩として描いたのだから こうやってもよいだろう。 共産党時代は内戦や戦争の頃に比べれば 死ににくなったかもしれないが毀誉褒貶の激しさは変わらない。 主人公もその荒波の中で、 揺れ動いた中国の上澄みから淀んだ泥水まで転...
なるほどこうやって終わらせるか。 あくまで絵巻物であり、叙事詩として描いたのだから こうやってもよいだろう。 共産党時代は内戦や戦争の頃に比べれば 死ににくなったかもしれないが毀誉褒貶の激しさは変わらない。 主人公もその荒波の中で、 揺れ動いた中国の上澄みから淀んだ泥水まで転がりながら読者に見せてくれる。 この作家が偉かったのは土地の記憶から離れなかったことだ。 上下巻に渡り一家は離散して、散り散りになるも最後は故郷に戻ってくる。 それというのも常に母親がその土地にへばりついているからだ。 その土地が自分のものでなくなった後も、 自分が死んだ後もその土地に居続けるその有り様は 下巻で明かされる彼女の若き日々とも合わさって壮絶である。 ただ、その派手さとは別に土地の記憶として歴史を描こうとする姿勢は 政治とは独立した中国の歴史を掴み直そうとする誠実さだと思う。 そして、何よりこの筆の膂力とも言うべき書き振りは確かなものだ。 星3つだが、人生に無力感や倦怠感を覚えている人には勧めておこう。 救われない人生としても、いつかどこかで誰かに会える気がする。 報われるかどうかは別にしても、 一瞬に世界の色合いが変わるような出会いは確かにあるような気がする。
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なぜ、中国で発禁になったかは、あとがきで著者と訳者がそれとなく推測をしている。受賞後のやっかみや、政治問題という事だ。ただ、タイトルや中身がエロいから、という稚拙な理由ではない。そしてそれこそが、中国において素朴の歴史観を綴ったという意味での革新的な事件だった事の証左となる。 ...
なぜ、中国で発禁になったかは、あとがきで著者と訳者がそれとなく推測をしている。受賞後のやっかみや、政治問題という事だ。ただ、タイトルや中身がエロいから、という稚拙な理由ではない。そしてそれこそが、中国において素朴の歴史観を綴ったという意味での革新的な事件だった事の証左となる。 後半は、登場人物も歳を取り、舞台が近代に移る。正直、それ以前のガチャガチャした設定の方が面白いが、近代なりのコミカルなタッチに様変わりする。彼の筆の力は、まさに天才だ。エンターテイメントとしても楽しく、政治小説としても読むことができ、何より、当時の生々しい生活を細緻に描き、体感させてくれる。オススメの著者である。
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