ベンジャミン・ブリテン の商品レビュー
日本では唯一?かもしれないブリテンの伝記。作品と生涯のおおよそを辿れるが、何か特筆すべき分析の鋭さなどはない。それが意図かもしれないが。やはりこの作曲家の場合、同性愛に目が行くが当時の厳しい目がいくイギリスに対して、恋愛に恵まれた人生とは言えるのではないか。
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原著2003年、邦訳(本書)2013年刊。 イギリス20世紀の著名な作曲家ベンジャミン・ブリテンに関する書物は邦訳ではこれ1冊のみと思われ、非常に貴重である。コンパクトな本だがよくまとまっており、ブリテンの歩みも主要な作品についてのあらまし・寸評も載っていて、ブリテン作品を聴...
原著2003年、邦訳(本書)2013年刊。 イギリス20世紀の著名な作曲家ベンジャミン・ブリテンに関する書物は邦訳ではこれ1冊のみと思われ、非常に貴重である。コンパクトな本だがよくまとまっており、ブリテンの歩みも主要な作品についてのあらまし・寸評も載っていて、ブリテン作品を聴く際にとても参考になる。 ベンジャミン・ブリテンの作風は晦渋で、親しみやすい箇所はあまりない。が、妙な味があり、私も以前一時期はまってCDを集めたものだったが、先日とうとう37枚組のCDボックスを購入。この妙な味の音楽を味わうのに、この本はよい水先案内人の役を果たしてくれるだろう。 本書を読むと、類は友を呼ぶというのか、同性愛傾向を持つ男性が次から次へと大量に登場する。ブリテン自身が、そんな好みを持つ人物と友だちになったときに自身もその傾向があるらしいと気づいたようだ。当時イギリスで同性愛は違法であったので、根がとても真面目なブリテンは大いに悩んだに違いない。 生涯のパートナーとなり、共に演奏旅行をも頻繁に行った、テナー歌手のピーター・ピアーズとの関係は有名だが、本書を読むとブリテンは結構移り気で、ピアーズをキープしつつも、新しく出会った少年たちに惹き付けられたりしている。この少年愛のテーマは、そういえばパゾリーニ監督とも一致しているが、ブリテンがとりわけ歌劇を書く際に中心的なテーマとなり、少年の純真さ・無垢さが社会の中で押しつぶされようとするというイメージが頻繁に出てくる。そうして晩年の歌劇はトーマス・マン原作の『ヴェニスに死す』なのだから、出来すぎだ。 サン=サーンスと同じように早熟の天才で、神童であったブリテンは、十代半ばの頃、シェーンベルクやベルクの音楽に惹き付けられ、ベルクの弟子になりたいと思ったが、親に反対されて断念したらしい。 同時期のヨーロッパの作曲界から見れば保守色の強いブリテンの音楽は、しかし、19世紀の純粋な調性音楽ともやはり違っていて、そこは「現代音楽」と見なされていたことだろう。一方では古くさいと無視され、一方では新しすぎると煙たがられる。こうした曖昧さが、ブリテンの評価を難しくしている。だが、私自身、そういう中途半端なような曖昧なポジションで作曲をしてきた道程を振り返ってみて、このイギリスの「天才」作曲家の妙に抑圧されたような音楽世界に、不思議と親近感を覚えつつあるのである。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ブリテンといえば「ねじの回転」を数年前にDVDで見たのと、子どものころ「青少年のための管弦楽入門」を聞いた記憶がある程度で、重要な存在と知りつつちゃんと取り組むにいたっていない。それなのに、閉店まぎわの古本屋でこの伝記の新本が安く売られていて、表紙のブリテンの肖像写真がとても魅力的だったので、買って読んでみた。 伝記というのはあまり失敗しないジャンルで、もちろんこの本も非常におもしろかった。著者は自身も作曲家であり、晩年のブリテンのそばで、スコアの改訂作業などを手伝っていたという。時系列に沿ってブリテンの生涯を淡々とたどりながら、それぞれの時代の作品の特徴がコンパクトに解説されているので、これからブリテンを聞こうという人間には非常に参考になる記述が多かった。 ブリテンについては、テノール歌手のピーター・ピアーズと公私ともにパートナー関係にあったということ、したがってテノールが活躍するオペラをたくさん書いたということくらいしか知らなかったので、新たに知ることばかりだった。早熟の天才で10代の初めからちゃんとした曲を書いていたブリテン少年は、当時の英国における知識人、特に作家たちとかなり濃厚な交流をし、その中でポエトリーへの造詣を深め、その結果としてオペラ作曲家へと成長していったということがよくわかる。そしてこの知識人の中には、W.H.オーデンやクリストファー・イシャウッドなどの同性愛者がたくさんいて、彼らをメンターとし、知的、精神的に成長していくなかで、ブリテンも自分の性的嗜好に気付いていく。ただし、同性愛は違法であった時代で、真面目なブリテンは性的には少々オクテだったようだ。とはいえ、相当魅力的な人物だったのだろう、若いときから男性にも女性にもモテモテだったらしい。 生涯ピアーズを伴侶として頼りながらも、「板のような胸をした少年」への抗いがたい執着もあったようだ。トラブルやスキャンダルになることはなかったようだが、この執着が、オペラ作品の素材選びに現れている。同性愛と同性愛者であることから生まれる社会的な葛藤、愛、海への思い、徹底した平和主義とは、彼の作品全体に大きく影響している。 けして頑健な肉体の持ち主ではなかったのに、ほとんど休みなく創作活動を続けていたのがすごい。と同時に、ピアニストや指揮者としても活躍し、ピアーズとは「詩人の恋」などのクラシックなリートのリサイタルツアーなども行っていた。若いときからの精神的な抑鬱症状に加え、晩年は様々な病に悩まされていたようである。 なお、「ねじの回転」の初演でマイルズ少年役を歌ったボーイソプラノの少年は、ミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』に主演したデヴィッド・ヘミングズというではないの!これはびっくりなトリビアであった(IMDBのヘミングズの経歴にもちゃんと書いてある)。 順序は逆になったが、これでブリテンの曲の魅力がどんなところにあるのか、それぞれの曲の聴きどころはどこかを知ることができた。この本を頼りに、少しずつ作品にも触れていきたい。
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