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ロングウォーク の商品レビュー

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2017/08/23

戦争から戻って来た兵士たちは、戦場体験と平時の日常生活の ギャップをどうやって埋めているのだろうかと思う。 幸いにして私は戦争体験はない。書籍や映画、ドキュメンタリー番組 で知るだけだ。それでも戦場の過酷さは伝わって来る。 『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・...

戦争から戻って来た兵士たちは、戦場体験と平時の日常生活の ギャップをどうやって埋めているのだろうかと思う。 幸いにして私は戦争体験はない。書籍や映画、ドキュメンタリー番組 で知るだけだ。それでも戦場の過酷さは伝わって来る。 『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル 亜紀書房)は 心的外傷後ストレス障害を抱えて生きて行く元兵士たちを取り上げた ノンフィクションだった。 本書も同じ系列に属するのだろう。著者はイラク戦争時にイラク・キル クークを中心に爆発物処理班の兵士として派兵された。物語は現地 での様子と、帰国後に襲った狂気の中での日常が交互に織り込まれて いる。 他国への軍事介入が何を引き起こしているのかを理解するにもいい。 どれだけ爆発物の処理をしてもイラク人から感謝されることがないど ころか、憎しみや反感を増加させるだけなのだもの。 それは最前線にいる兵士のせいではなく、安全なところにいて指揮を 執っている最高責任者の政治的判断のせいなのだけれどね。 無限とも感じられるほどに仕掛けられた爆発物。規制線の向こう側から 現場を取り囲む群衆の中に自爆犯がいるのではないかと神経を尖らせ る日々。平常心を保てという方が無理であろう。著者も現場でイラク人 少年に対し、ライフルの照準を合わせた経験を綴っている。引き金を 引くことはなかったが。 「戦争に行った男はみんな死ぬのよ、死にかたはいろいろだけどね。 あっちで死んでくれたほうが、いっそあんたのためには幸せだよ。 生きて戻ってきたら、わが家で戦争に殺されるんだからね。あんたも 道連れにして」 著者のイラク派兵が決まった時、奥様がおばあ様に相談した時の、 おばあ様の言葉だ。 現実は正にこのおばあ様の言葉通りだった。アメリカへの帰国後2年 して、著者は徐々に狂気に囚われて行く。心的外傷後ストレス障害に 加え、爆風による外傷性脳損傷と診断される。そして、家庭は崩壊 に向かう。 戦争は、それに関わった人々の人生を狂わせる。戦死ではなくとも 兵士たちの心を殺す。その兵士たちの家族さえ、心を殺されるのだ。 仲間を、心を、家族を。いろいろなものを失った著者の哀しみと怒り が凝縮された作品だった。

Posted byブクログ

2014/06/06

悲しい。 文章はとんでもなく上手で、読むスピードが上がる。突然で頻繁な場面転換はまるでカット割りを多用する映画のようで、けれどそれは実際に著者の頭の中で起こっていることだと説明されると、そのスピードをオモシロイと思ってしまった自分が情けなくなる。

Posted byブクログ

2014/04/16

戦争によって脳損傷を受け、 精神的にも大きなストレスを受けた著者の イラクでの活動内容と、帰国後の困難な日常生活を 交差させつつ描く。 著者の辛さが非常によく伝わり、 いたたまれない気持ちにさせられる。 日中戦争の従軍記にも通じるものを感じたが、 やはり今昔問わず戦争という特殊...

戦争によって脳損傷を受け、 精神的にも大きなストレスを受けた著者の イラクでの活動内容と、帰国後の困難な日常生活を 交差させつつ描く。 著者の辛さが非常によく伝わり、 いたたまれない気持ちにさせられる。 日中戦争の従軍記にも通じるものを感じたが、 やはり今昔問わず戦争という特殊な環境は 人をひどく傷つけるものなのだと感じた。

Posted byブクログ

2014/03/01

イラク戦争を、爆発物処理班として戦った兵士の戦場経験と現在。 戦争は、人間を破壊する。生きて帰ってきたとしても、以前の自分と同じではいられない。 一兵士は、決して駒ではなく、リアルな存在であり、生涯傷を抱え続けることになる。 リアルに語られることの少ない、一兵士と戦争との関わりが...

イラク戦争を、爆発物処理班として戦った兵士の戦場経験と現在。 戦争は、人間を破壊する。生きて帰ってきたとしても、以前の自分と同じではいられない。 一兵士は、決して駒ではなく、リアルな存在であり、生涯傷を抱え続けることになる。 リアルに語られることの少ない、一兵士と戦争との関わりが、詳細に語られる。 「戦争に行った男はみんな死ぬのよ、死にかたはいろいろだけどね。あっちで死んでくれた方が、いっそあんたのためには幸せだよ。生きて戻ってきたら、我が家で戦争に殺されるんだからね。あんたも道連れにして」 第2次大戦時に兵士の妻となった祖母の言葉は、過去も現在も、戦争が兵士の心に深い傷を与えるものだということを物語っている。 現代の大義を見出しにくい戦争は、より兵士たちに深い傷を与えるのだろうか。 肉体的には死ににくくなっている現代の戦争において、爆風が脳を壊すなど、現代の戦争が、肉体に与える影響についても、知らないことがたくさんあり、勉強になる。

Posted byブクログ

2014/01/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 EOD-爆発物処理班(Explosive Ordnance Disposal)の将校としてイラクのキルクークで勤務した筆者の当時の回想と現在の状況を描いたもので、描写が頻繁にしかも突然切り替わるので、最初は読みにくかったが、次第にこの内容に相応しい書き方と思えるようになった。  イラクでは怪しい物が見つかったと連絡があると処理にでかけ、まちぶせの罠かもしれないところで無害化し、あるいは爆発後の現場に急行し、泣き喚く女子供、あるいは怒鳴ったり睨みつける群衆の中で、汚物や血の海の中を爆発物の証拠や犠牲者の遺体を収集するのである。数百メートルも飛び散るような爆発では、ろくなものは残っていない。現場の第一線にいる個人の視線から見た現代の戦闘様相、すなわちIED(即席爆発装置)を用いた戦場の状況がよくわかる。  このような過酷で命も危ない仕事は、無事帰国できても後遺症が残る。爆風の衝撃波を何回も受けて脳にダメージが出るらしい。筆者も帰国後2年して、狂気と呼ぶ妄想、悪夢、心身疲労などに取りつかれた。戦争に行った人は帰って来ない、命あって帰って来ても別人だ、というのはこういうことなのだ。  

Posted byブクログ