マヤコフスキー事件 の商品レビュー
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マヤコフスキー事件 著者 小笠原豊樹 河出書房新社 2013年11月20日発行 1930年4月14日、モスクワに住む有名詩人マヤコフスキーが謎の死を遂げる。直前まで部屋にいた売り出し中の若手美人女優、ポロンスカヤ。 捜査当局の発表では、マヤコフスキーのピストル自殺とされた。 ロシア文学研究家で翻訳家の著者が、ポロンスカヤが残した文書や、その他の資料を調べ、自殺ではなく、謀殺であることを主張した本。ただし、綿密な証拠を積み重ね、推理小説的に証明したというような類のものではなく、あくまで状況証拠を示しながら、マヤコフスキーの生活や過去、時代背景などと照らし合わせながら推論しているという内容である。ジャーナリスティックなノンフィクションものではなく、スターリン抑制下のソビエト社会、そこにおける文学、演劇、映画に関わる人々のモスクワでの生活ぶりに興味をそそられる本でもあった。 レーニンの死はこの6年前、1924年。スターリンがトロツキーを国外追放して体制を固めたのが1年前の1929年。トロツキー派は排除され、時に殺された。マヤコフスキーは15才でロシア社会民主労働党に入党し、帝政下で逮捕されながら活動をした社会主義活動家でもあった。トロツキー派だったかどうかはこの本では示されていないが、スターリンは彼をそうかもしれないと警戒し、殺してしまったと著者は推論している。理由は、トロツキーは彼の詩をよく理解し、賞賛したが、スターリンは芸術をまるで理解しなかったから。 「あいつはトロツキー派かも。殺しておいた方がよい」と考えたらしい。 そういえば、芸術予算をばさばさ切っていった独裁者風の市長がどこかにいるなあ・・・ それにしても、日本人には理解しがたい生活ぶりが描かれている。彼の死の直前までいた女優ポロンスカヤは既婚者。それなのに、その夫とともに3人でよく行動し、夫と別れて俺と結婚しろとマヤコフスキーが言い寄っているのを夫もよく知っている。それでも、会うことを制限するどころか、なにも言っていない。 マヤコフスキーは、死んだ彼の仕事部屋とは別に、住まいがあったが、そこでは友達夫妻との3人暮らし。しかも、その妻とは、以前、恋人関係にあった。もう夫婦だったのに、妻と恋人だったのである。 この本は、「はじめに」がなく、読み始めても、何を読んでいるのか分からない。「あとがき」から読む必要があるかもしれない。 ****本書は、初め、マヤコフスキーの最後の一年間、だれよりも詩人に近かったモスクワ芸術座の女優、ブェロニカ・ポロンスカヤの三つの文章を翻訳し、それに少し長めの解説をつけて、詩人の晩年に関する興味深い資料を提供しよう、というほどの意図で始まった仕事だった。三つの文章とは、まず、詩人の急死当日に当局の事情聴取を受けたポロンスカヤの供述調書、そしてその八年後、自発的に書かれたポロンスカヤの回想記、そして更に二十年後にこれまた自発的に書かれた手記、この三つだ。**** と「あとがき」には書かれている。 最初の供述調書には、マヤコフスキーとは性的関係はないと書かれている。ストーカーみたいにつきまとわれたので別れ話を切り出した、としている。 7年後の回想記には、彼とは関係があって妊娠し、堕胎までしていると書いている。 そして、20年後の手記では、自殺ではなく殺人だと言っている。 厳しい当局による監視社会の中で真実が言えなかっただけなのか、女優として輝きをなくした彼女が世間の注目を再び浴びようと画策したのか、よく分からないが、一見、中途半端なスタンスのこの本、読み始めるとその雰囲気に惹かれていって入り込んでしまう。 ロシア文学にまったく疎いのにもかかわらず。
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ソ連の国民的詩人・マヤコフスキーの自殺に関する3つの調書を翻訳しているうちに、はたしてマヤコフスキーは本当にピストル自殺したのだろうか、という疑問が生まれてくる。愛人の女優との関係を含め、一転二転する状況の変わりようを推理していく。 表紙に惹かれて手に取ったけれど、実はマヤコフ...
ソ連の国民的詩人・マヤコフスキーの自殺に関する3つの調書を翻訳しているうちに、はたしてマヤコフスキーは本当にピストル自殺したのだろうか、という疑問が生まれてくる。愛人の女優との関係を含め、一転二転する状況の変わりようを推理していく。 表紙に惹かれて手に取ったけれど、実はマヤコフスキーを知らなかった。でも、推理小説を読むような感覚で読み続けてしまった。
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