憲法で読むアメリカ史 の商品レビュー
本書を読むきっかけは、米連邦最高裁が06/24に1973年の「ロー対ウェード判決」を覆した背景を知りたいと思ったから。 トランプが中絶禁止、同性婚禁止をすべく保守派の判事を最高裁に送り込んでいたのは知っていたが、日経の以下の記事を読んで、アメリカの司法制度について学ぶ必要がある...
本書を読むきっかけは、米連邦最高裁が06/24に1973年の「ロー対ウェード判決」を覆した背景を知りたいと思ったから。 トランプが中絶禁止、同性婚禁止をすべく保守派の判事を最高裁に送り込んでいたのは知っていたが、日経の以下の記事を読んで、アメリカの司法制度について学ぶ必要があると考えた。 ーーーー オバマ政権下で民主党は2013年、上院(定数100)で第二審にあたる控訴裁の判事承認に必要な賛成票を60票から51票に引き下げた。共和党からの賛成が得られず、判事の承認が滞ったからだ。60票が必要な従来の手続きは承認に超党派の合意がいるため、判事に大きな偏りが出ない制度として機能してきた。賛成票の引き下げは禁じ手とされていた。 ーーーー 本書を読んで自分がいかにモノを知らないかを痛感した。知っているようで知らないアメリカを知るために必読の一冊と言える。アメリカという国がいかにして形作られてきたのかを憲法解釈(憲法制定後の連邦政府と州政府の権限と両社の関係を含む)の推移を通じて知ることができる。 「モノを知らない」一例を挙げれば、私は、リンカーン大統領は奴隷を開放した偉大な人物と認識していたが(ほとんどの人がそうではないだろうか?)、南北戦争の目的は連邦統一の維持にあって、リンカーンは南部が連邦にとどまるのであれば、憲法を改正して南部における奴隷制度の不可侵を保証しても良いとさえ考えていた、という(しかし、戦争開始後1年で現実的な理由から奴隷解放を錦の御旗とした)。 本書で学んだこと:最高裁判事の構成や判決が政治状況に左右されるのはリンカーン登場前からあった:①奴隷制度にかかる国論の分裂を深めた「スコット事件判決」(1857年)はブキャナン大統領と首席判事の間に密約があった、と疑われた。②ローズヴェルト大統領はニューディール立法に違憲判決を出されても無視、最高裁対策として「判事押しこみ計画(court packing)」を進めたが失敗に終わった(多くの国民がニューディール政策を支持し、最高裁の判決に対しては各方面から批判を浴びていたが、いざ大統領が最高裁を意のままにしようとすると、独立した司法権の存在を大切にした)。③ウォレン・コートのウォレン首席判事はニクソンが大統領になると確実に保守的な判事を指名することを踏まえて、民主党大統領在任中に辞任して、自分と同じく進歩的な人物に後を託そうとしたが上手くいかなかった(経緯はかなり複雑)。ニクソン・フォード時代に最高裁判事は保守派が5人となり、進歩派が優勢であったウォレン・コートは様変わりした。しかし、保守派が優勢なバーガー・コートはニクソン大統領の思惑とは逆に進歩的な判決(大胆な憲法解釈)を出して世を驚かせた。バーガー・コートが下した判決の中で最大の議論を呼んだのが、現在話題になっている「ロー対ウェード事件判決」(1973年)で、妊娠中絶を犯罪として取り締まっていたテキサス州の制定法を女性のプライバシーに関する憲法上の権利を侵害するものとして違憲と判断した(7対2)。中絶に関する関心は、判決以前よりかえって高まり、「ブラウン事件判決」(1954年、公立学校における人種別学は違憲)の後、南部が黒人の隔離についてむしろ態度を硬化させたのと似ている、と阿川氏は指摘する。そして、スコット判決の時と同様に、共和党は「ロー対ウェード事件判決」を覆すことを政治目標として掲げ、そのため大統領選で勝ち、新しい判事を最高裁に送り込む。最高裁判事を巡る政治闘争はこうして始まった。 トランプ大統領によって米国の『分断』が深まったと言われるが、本書を読んで、根深い『分断』は「スコット事件判決」以来の長い歴史を持ち、今アメリカを揺るがしている中絶に関する『分断』の芽は半世紀も前にはらんでいたのである。 阿川氏は本書をこう締めくくっている。 最高裁判事の人事が全国民の関心を呼ぶ政治的事件となりうるなどとは、誰も思わなかった。しかし現在でもフィラデルフィアで起草したのと基本的には同じ憲法の規定に従い、大統領の指名による最高裁判事を承認するかどうかを上院議員が投票で決定する。その手続きは一つも変わっていない。そのこと自体、この憲法の長い命と有用性を示しているように思われる。 ローズヴェルト大統領の「判事押しこみ計画(court packing)」が廃案に追い込まれたように、現在のアメリカは独立した司法権の存在を守ることができるのだろうか。
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いろいろ書いていたのに消えてしまったから、短くだけ。 南北戦争でのリンカーンの黒人奴隷の処遇に関しては本音ではどちらでも良く、分裂したアメリカを元に戻すことの一点のみにゴールを置いていたことがとても印象的だった。 黒人にとったら大問題なのに、リンカーンにとっては優先順位は低い。...
いろいろ書いていたのに消えてしまったから、短くだけ。 南北戦争でのリンカーンの黒人奴隷の処遇に関しては本音ではどちらでも良く、分裂したアメリカを元に戻すことの一点のみにゴールを置いていたことがとても印象的だった。 黒人にとったら大問題なのに、リンカーンにとっては優先順位は低い。人によって大事なことの優先順位が違うから、争いは絶えないのだろう。 また外国との関係性で内部がまとまっていく流れも、共通の敵がいれば結束が強まる典型で、リバイアサン的存在が必要なのかもしれない。
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長さを感じさせない。飽きさせない。分かりやすいが、読者に媚びている訳でもない。著者は非常に頭が良いんだろうなと思う。 アメリカ史ということで、世界史にどっぷりだった高校生のころに読んでも面白かったろうし、憲法を学び始めた法学部生として読んでも面白かったろう。 読後の清々しさは星...
長さを感じさせない。飽きさせない。分かりやすいが、読者に媚びている訳でもない。著者は非常に頭が良いんだろうなと思う。 アメリカ史ということで、世界史にどっぷりだった高校生のころに読んでも面白かったろうし、憲法を学び始めた法学部生として読んでも面白かったろう。 読後の清々しさは星五つとしてしまいたいところであるが、この人誰だっけと思ったりさせられるところだけが、やや難点、、
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アメリカ合衆国の歴史を憲法とその解釈(判例)を中心にして紐解く。 国家の生い立ちからも、アメリカという国を知るためには憲法の内容、背景、その判例を知ることが極めて重要であることを改めて感じた。 時に判断に迷う時には建国の精神まで遡る、即ち憲法の精神に立ち返る、ということは今現在で...
アメリカ合衆国の歴史を憲法とその解釈(判例)を中心にして紐解く。 国家の生い立ちからも、アメリカという国を知るためには憲法の内容、背景、その判例を知ることが極めて重要であることを改めて感じた。 時に判断に迷う時には建国の精神まで遡る、即ち憲法の精神に立ち返る、ということは今現在でも活発に行われている。 一方で時代の要請に応じて、その解釈を柔軟に変えている事実も興味深い。 ユニークともいえる三権分立の仕組み、その実態等も学ぶことができる。 何れにしても、アメリカの国家の仕組みを理解するのに一読すべき一冊。
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アメリカ史を憲法の兼ね合いでみていくと最高裁との関連でどのような時代背景で判決が下され、憲法上の解釈とアメリカという国が進むべき方向性、国として抱える差別問題の経緯などが分かる。特に奴隷制度と黒人差別、そして近代の女性の差別問題に対して国がどのように向き合ってきたのかが分かる。ア...
アメリカ史を憲法の兼ね合いでみていくと最高裁との関連でどのような時代背景で判決が下され、憲法上の解釈とアメリカという国が進むべき方向性、国として抱える差別問題の経緯などが分かる。特に奴隷制度と黒人差別、そして近代の女性の差別問題に対して国がどのように向き合ってきたのかが分かる。アメリカの連邦政府と州政府との関係性などがアメリカ独立から南北戦争を経てどのように向き合ったのか、これを知りたければ手に取って読むべき本。
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法律の解釈というものは、政治的なものであることが、よくわかる。自分に都合のいいように解釈して良いのであれば、結局、政治経済力が無ければ、法律は人を守らないということか。
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アメリカ建国からバーガーコートまで約200年をカバー。合衆国連邦と州政府のと関係、州際条項を活用しての連邦政府の各州政府規制への努力、立法・行政との力関係の中で前判例を覆す判例を出しながら時に進展し、時に非難を招いてきた歴史を丁寧に解説。特に、連邦最高裁の権力の確立、先住民の扱い...
アメリカ建国からバーガーコートまで約200年をカバー。合衆国連邦と州政府のと関係、州際条項を活用しての連邦政府の各州政府規制への努力、立法・行政との力関係の中で前判例を覆す判例を出しながら時に進展し、時に非難を招いてきた歴史を丁寧に解説。特に、連邦最高裁の権力の確立、先住民の扱いの歴史、奴隷制廃止に至る裁判史、連邦政府による経済規制の歴史、黒人差別撤廃への歴史など、アメリカ史の重要局面においてあまり紹介されていない連邦裁判所の関わり方がわかる。アメリカでは司法社会と言われるほど、出きた州法、連邦法の正統性を否定する訴訟が多く、大統領令、議会法を制定しても裁判所の判決を待たないと最終的に何が有効かが確立しない。それほど合衆国の最高裁としての連邦最高裁判所の判決はアメリカ史を知る上で欠かせないものとなっている。
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新書版二巻を文庫版一冊として再刊するに当たって、内容も一部変更したとのことです。飛田茂雄『アメリカ合衆国憲法を英文で読む』とともに、アメリカという国を一歩踏み込んで理解しようとする際、大いに参考となる良書だと思います。
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これは良い本見つけた。アメリカの最高裁判所が司法審査(違憲立法審査)の権限を存分に行使して国の方向を作っていったのがよくわかった。最高裁判決が判事の政治色の影響を受けていることに違和感を感じたが、それが逆に世間の動向に合わせた柔軟な変化を生み出すことになったと思う。憲法解釈だけに...
これは良い本見つけた。アメリカの最高裁判所が司法審査(違憲立法審査)の権限を存分に行使して国の方向を作っていったのがよくわかった。最高裁判決が判事の政治色の影響を受けていることに違和感を感じたが、それが逆に世間の動向に合わせた柔軟な変化を生み出すことになったと思う。憲法解釈だけに縛られておらず、勢いで行く感じ(特に非常時)。憲法の中では通商条項とデュープロセス条項が便利に使われていたな。 有名な「人民の人民による人民のための政府」は「連邦の正統性の基盤が州ではなく人民にある」という意味であることが、連邦と州の争いの経緯からよく分かった。
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20世紀以降のアメリカがクリエイティブな発想と内から溢れる力強さを備えている理由の端緒がわかった。建国以来ずっと正しさの根拠を求めて司法が格闘しているのだ。アメリカという国は憲法を通じて正しさを生み出すことに積極的だった。建国して以来国が成長するのと歩調を合わせて、憲法やその解釈...
20世紀以降のアメリカがクリエイティブな発想と内から溢れる力強さを備えている理由の端緒がわかった。建国以来ずっと正しさの根拠を求めて司法が格闘しているのだ。アメリカという国は憲法を通じて正しさを生み出すことに積極的だった。建国して以来国が成長するのと歩調を合わせて、憲法やその解釈も次第に成長してきたようだ。憲法が成文化されていないイギリスも似たようなものだという認識があるが、アメリカはその嫡出子だったということだろう。 ひるがえって日本を見つめると、明治維新後は正しさの根拠は主権者たる天皇から降ってくるものだととらえ、戦後はアメリカ流の憲法を移植した。憲法だけをとって歴史的成り立ちを対比すると、日本の憲法の存在が随分とうすっぺらな気がして頼りなさげにみえる。憲法がこう言っているから…というのを論拠とせずもっと自分の頭で善悪を考えたい。
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