安倍政権の改憲・構造改革―新戦略 の商品レビュー
渡辺治の「時代を読む」シリーズ第三弾である(勝手に命名しました)。今年の5月から9月までの日本政治状況の本質を喝破し、展望を示している。よって安倍の秘密保護法強行採決と国民の反撃の盛り上がりまでは流石に予想出来てはいないが、そこに至る両者の条件の解説は十二分に書いていると言ってい...
渡辺治の「時代を読む」シリーズ第三弾である(勝手に命名しました)。今年の5月から9月までの日本政治状況の本質を喝破し、展望を示している。よって安倍の秘密保護法強行採決と国民の反撃の盛り上がりまでは流石に予想出来てはいないが、そこに至る両者の条件の解説は十二分に書いていると言っていいだろう。 表紙は富士山上空を我が物顔で飛行する米軍機オスプレイの写真。合成だそうだけど、狙いはよくわかる。 この間の大きな出来事は、言うまでもなく参議院選挙である。よって選挙の総括が縦横に語られている。 参議院選挙の特徴は何か。 一つは自民党の大勝。小選挙区制と民主党減少に助けられたのは事実。しかしそれだけではない。地方でアベノミクス(の公共事業政策)が「仕方のない対案」として期待され、都市部では第一と第三の矢が期待された。そしてさらに、安倍は改憲も、消費税引き上げもTPPも隠した。 一つは、保守二大政党制の崩壊と保守多党制に移ったということ。急進構造改革路線の維新とみんなが伸び悩んだ。国民からはあの党は「対案」とはみなされなかった。 一つは、共産党が躍進した。都議選の大勝が大きかった。中選挙区制だった都議選で、構造改革に対する「対案」としてやっと共産党が認識され出した。二大政党制が崩壊し、比例区や複数区がある参議院選挙で戦う余地が出来た。都議選で運動が高揚した。 参院選は、構造改革側から構造改革の帰結である「デフレ不況」を克服することを掲げた「アベノミクス」と、構造改革に終止符を打つ立場からの政策を掲げた共産党という二つの対案に対する期待という形で現れた。 では、安倍政権は参院選あとになにを目指そうとしているのか。 安倍と米国の軍事政策はずれている。米は軍事分担は日本に出来るだけ肩代わりして欲しいと思っている。アジア・太平洋の役割分担として、普天間基地の辺野古移転、オスプレイ配備を求め、集団的自衛権の解釈改憲も求めている。他方、米は日本が独自の軍事大国として復活し、アジアの秩序を撹乱させることは望んでいない。安倍の集団的自衛権容認の主張も、それが尖閣諸島紛争に日本がアメリカを巻き込む梃子に使われることには極めて警戒的である。 私が思うに、これが安倍の一つ目の読み間違いになると思う。 安倍は財界の言う通りに消費税とTPP推進に舵を切った。財界の懸念はこれで払拭された。しかし、これで国民との剥離は加速するだろう。 国民の中では、中国・韓国に対する反発はあるが、かといって安倍政権が戦前への復古政策をとることにも反対と懸念は強い。これも「読み間違い」だと私は思う。 社会保障構造改革で、安倍は社会保険(医療・年金・介護)を「公助」から「共助」に変えようとしている。これが「成長戦略」の第三の矢で、民間企業の参入のための規制緩和と連動する。 これら安倍の企ては全て、実現は困難性を抱えているだろう。それに対抗する手段として渡辺は「国民的共同」の戦いを提唱している。(←秘密保護法強行採決を見ると、安倍の戦略は「スピードを持って行えば乗り切れる」ということだろうと思う) 「国民的共同」は当然まだ霧中だ。ただ、幾つかの貴重な指摘があった。 一つ、安保型共闘の再現はムリ。社共合わせても現在得票率は12%しかない。労働組合も小さくなった。 一つ、新たな条件が生まれている。企業支配に組み込まれない大量の非正規雇用労働者。地域保守勢力の中の構造改革・軍事大国化に反対する勢力。市民運動の成長。女性運動と女性たちが層として参加。この四つの条件を生かさなくてはならない。 一つ、良心的保守層との共同も不可欠。 この本の初版は今年の10月30日だった。来春には、次の出版を是非とも望みたい。 2013年12月13日読了
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