死の帝国 の商品レビュー
奇書である。 ヨーロッパを中心とした世界各地の納骨堂を紹介する写真集。 時代やテーマごとに章分けされ、各章には詳細な解説がつく。 著者は美術史を専門とする研究者。本書のため、4年以上の歳月を掛けて70以上もの納骨堂を訪ね、写真を撮影している。 納骨堂、と一言でいうが、いずれも夥...
奇書である。 ヨーロッパを中心とした世界各地の納骨堂を紹介する写真集。 時代やテーマごとに章分けされ、各章には詳細な解説がつく。 著者は美術史を専門とする研究者。本書のため、4年以上の歳月を掛けて70以上もの納骨堂を訪ね、写真を撮影している。 納骨堂、と一言でいうが、いずれも夥しい数の骨が納められている。 全身のものもあるが、多く使用されているのは頭蓋骨と長骨(大腿骨だろうか)。 あるいはうずたかく積まれ、あるいはポーズを取らされ、あるいは紋章を描き、あるいは壁そのものを形作る。 本書に出てくる写真の中だけで、いったいどれほどの数になるのか見当もつかない。 宗教的背景を背負い、聖人の骨と伝わるものもある。 絵や小道具と組み合わされ、ダンス・マカーブル(「死の舞踏」)やメメント・モリのような警句を具象するように配置されたものもある。 ときにはこうした納骨堂はグロテスクであり、異端であると非難されたこともある。 民間信仰の対象となり、くじの番号を教えてほしいとか、よい結婚相手を見つけてほしいといった俗な祈りが捧げられたこともある。 そのまま怪奇小説の世界につながりそうなおどろおどろしさもある一方で、永遠の真実を伝えようとしているようでもある。 骨はただ、黙して語らない。 納骨堂を守り伝えてきた人々の思いの中に、聖と俗が見え隠れするようでもある。 不思議な本、不思議な読後感である。
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