恥じらい旅情 の商品レビュー
読み手を引き込む構成とキャラ設定と文章に欠ける
「おすいけ さいち」と読む作者のデビュー作。構成や文章にこなれた様子が見受けられないこともあり、既出作家の別名義とかではなく本当のデビュー作と思われる。あと、表紙カバーイラストではヒロインが旅に出るかのように描かれているが、実際に出掛けるのは主人公であり、旅行ではなく、とある商品...
「おすいけ さいち」と読む作者のデビュー作。構成や文章にこなれた様子が見受けられないこともあり、既出作家の別名義とかではなく本当のデビュー作と思われる。あと、表紙カバーイラストではヒロインが旅に出るかのように描かれているが、実際に出掛けるのは主人公であり、旅行ではなく、とある商品の営業出張である。そして、内容においてもいろいろな面でちぐはぐな印象を受ける、ある意味デビュー作らしい出来と言わねばならないであろう。 まず、読み手を引き込むような文章表現に乏しく、女上司が別室で自慰に耽る冒頭で早くも萎えてしまった。物語のカギを握るアイテムの登場シーンでもあるために何らかの形で出しておきたかったのであろうとは思うが、最初から「音」がしてしまっていては、その先を読まずとも何が行われているのか分かってしまい面白くない。 これは各章の章題にも同じ事が言える。横浜・山形・高知・秋田・滋賀と行脚して商品のモニターを探す営業を続ける主人公だが、行く先々の方言を盛り込んだやり取りなどには見るべき点もあったものの、章題で何が行われるのか分かってしまうため、読まずとも大体の展開が読めてしまう。実際の展開も予想通りで、その官能描写もぎこちない。限りなく回答に近いヒントが書かれた答案用紙を渡されてから試験に挑む出来レースに近い感覚となってしまい興が削がれた。 さらには、終盤になって唐突に訪れる夫婦交姦の流れにも違和感があった。悪い噂を流されている女上司という伏線の回収でもあるのだが、この噂を解消するには他にも手段は考えられるし、とりわけ誘惑作品を好む読み手にはあまり喜ばれない官能描写と言える。これを嬉々として受け入れている様子に写る女上司にも「何だかな~」といった感慨が芽生え、興奮度の高い場面ではあるのだが複雑な心境に陥る諸兄も少なくないだろうと推測する。そもそもクールでデキるキャリアウーマンながら、居丈高な態度の方が鼻についてしまう女上司に可愛げがなく、親しみをもてないところが何より残念と言わねばならない。
DSK
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