BLAST の商品レビュー
「石灰石を破砕する瞬間とは、言い換えれば、自然が都市へと変わる瞬間のことだ」。文明批評にも似たひらめきに導かれるようにして、写真家は発破の現場に足しげく通う。そうして彼が写しつづけた爆発の瞬間は、のちに一冊の厚みとひとつの名前を授かることで、爆発が芸術へと変わる瞬間、へと生まれ変...
「石灰石を破砕する瞬間とは、言い換えれば、自然が都市へと変わる瞬間のことだ」。文明批評にも似たひらめきに導かれるようにして、写真家は発破の現場に足しげく通う。そうして彼が写しつづけた爆発の瞬間は、のちに一冊の厚みとひとつの名前を授かることで、爆発が芸術へと変わる瞬間、へと生まれ変わることになった。それが本書、『BLAST』である。 日本の鉱山における発破の瞬間ばかりを撮影する、というそれ自体ユニークな視点によって編まれたこの写真集には、起砕されて真昼の宙に飛びだした無数の岩石の破片や小石の群れの、おそらく写真以外の記録メディアによってはとらえることのできなかったであろう美しさが、みごとに収められている。おびただしい質量の無機物の塊が、画面の内側からその外へと、まるで起爆によって生命を宿したかのようにはみ出し、飛び散っていくかのような躍動感には、思わず見惚れてしまった。 写真とは時間を止めるテクノロジーにほかならない。しかも、それは二重に時間を止める。爆発の熱量に押されて高速に散り散りになっていく岩や石や砂を、あたかも静止した星屑のようにして固定することに成功した写真は、同時に、それを手にし、目にした者によって生きられる時間を、ほんのひと刹那にせよ、止めたのだ。 視点とその成果だけでもすでに卓越した出来ばえだが、陸前高田を故郷に持つ写真家が、巻末の「ながいあとがき」において読者にむけて宛てた謝辞が、さらなる余韻を曳く。大津波と石灰石鉱山という、本来であればたがいに無関係であったはずのものが、故郷の喪失をきっかけに、どうしても結びついてしまうようになった。写真の話と震災の話を切り離して語ることができずにいる、そんなみずからの「無粋」を、どうかゆるしてほしい。このように切々とつづる彼は、しかしながら本当は、読者にたいして以上に、彼が救うことのできなかった故郷の幾人もの魂にむけて、どうかゆるしてほしい、と乞いつづけているのかもしれない。 たんなる芸術上の作品としてのみならず、採鉱技術上の貴重な記録としても、さらには震災と津波によって洗い流された土地の記憶の物語としてさえも残っていくことになるだろう本書は、黙祷のように静かでありながら、彼が撮りつづけた生まれ故郷の切り羽のように、巨大な傑作だと思う。
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カッコいい!!石灰石鉱山の発破されてる瞬間は爽快で、また人間の眼では発破される瞬間を鮮明に捉えるということは難しいと思うので、写真だからこそ成立する瞬間のようにも感じた。石灰石のその後を考えると、この瞬間は自分の生活にも続いているような気もする。
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