維新漂流 の商品レビュー
元横浜市長、現日本維新の会衆議院議員の中田宏氏への取材を通じて、筆者が垣間見た維新の会の内幕が記された書と書くと、少し筆者の執筆意図とはずれるのかもしれないが、その部分が非常に興味深い。 本書の前半では、中田氏が橋下徹氏と行動をともにするようになるまでの政治家としてのあゆみが紹...
元横浜市長、現日本維新の会衆議院議員の中田宏氏への取材を通じて、筆者が垣間見た維新の会の内幕が記された書と書くと、少し筆者の執筆意図とはずれるのかもしれないが、その部分が非常に興味深い。 本書の前半では、中田氏が橋下徹氏と行動をともにするようになるまでの政治家としてのあゆみが紹介されるが、その点については、これまでさまざまな形で紹介されてきたものなので、中田氏にふれた本を読んでいれば、それほど新味のある記述はない。2010年の参院選での日本創新党の選挙戦いの模様は、現行の選挙制度の元で諸派扱いの政党で選挙を戦うことが、どれだけ難しいかがわかるが、それも中盤以降の橋下氏の登場の前には霞んでしまう。 本書は日本維新の会の2012年総選挙の選挙戦の実態をまとまった形で世に出した書籍としては、最も早いものだと思う。興味深く、生々しい記述が散見される。中田氏からすると日本維新の会の選挙戦は、とても組織だったものとはいえなかったようだ。具体的には、公認のプロセスや遊説スケジュールの調整の不備などについて触れられている。 組織的な支援が得られず、期待した風もおこらず各地で苦戦する候補者の姿が描かれる。中田氏が応援・遊説を担当したのは、主として自身が立候補した北陸信越ブロックだったようだが、急な総選挙で満足な人の手当ができず、組織的基盤がない中で、ポスター張りすらままならない状況が赤裸々に記されている。 これは、あくまで中田氏の視点を借りて筆者が取材した材料を構成したものなので、主役が変われば見え方も変わるだろうと思う。日本維新の会は、おおまかに西日本を大阪維新の会が、東日本を旧たちあがれ日本が主導する形で選挙戦をおこなったという記述が本書にはある。 しかし、思いつく限りでもみんなの党から脱党したグループ、維新政治塾出身者、元自民党議員・候補者、まったくどの勢力にも関係のない候補者など、さまざまな属性を持つ人々が日本維新の会には集った。どの立ち位置から見るかによって選挙戦や日本維新の会の組織に対する評価は当然違ったものになるだろう。 日本新党やさきがけの所属議員や関係者が、解党後に党の活動をふりかえる書を多数出版した。いずれ日本維新の会の所属議員や関係者からもそうした証言が得られる日が来ると思う(決して日本維新の会が解党すると言いたいわけではないが)。現在は、インターネットがあるので、ひょっとしたらすでに様々な証言がネット上にはあるかもしれないが、それをすべて拾って回ることはなかなか難しい。ぜひ、ご関係の皆様には日本の政党政治の発展のためにまとまった書籍という形で日本維新の会の活動について記すことで、多元的な視点を国民に提供していただきたい。 最期に本書の中に「国家について語るのは、批判のための餌をまくようなものだ」という記述がある。今日の橋下氏と日本維新の会の状況を暗示しているかのようで、一読した瞬間に頭に焼きつき忘れることができない。 現在、日本維新の会の衆議院議員になっている山田宏氏は、橋下氏の国家観が不明な点を警戒し、なかなか関係を深めなかったそうなのだが、橋下氏は、国家観なるものから距離を巧みにおくことで支持を維持してきた面があると私は思う。その間合いをなぜか橋下氏は見誤った。 旧たちあがれ日本と合併したこともそうだが、なぜ、橋下氏は現在のような行動を取るようになったのか、元々そういう資質をもっていたのか、それとも周囲に感化されたのか。私の感じている疑問は本書を読んでも解消されなかった。しかし、だからといって21世紀の政治史に足跡を間違いなく残すことになるだろう日本維新の会を考える上で、本書が、貴重な資料の一つになることは間違いなく、一読の価値はある書だと思う。
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