福澤諭吉 の商品レビュー
学生時代に西部邁氏に傾倒し、かなり著作も読んだのだが、ある時期からふつりと読むのをやめた。言ってることは共感できるし、現代日本では類稀なる保守的知性であることは間違いないが、そのワンパターンに食傷したのだ。また氏が自覚的にやっていることであり意図は理解するが、天邪鬼ぶりが少々度が...
学生時代に西部邁氏に傾倒し、かなり著作も読んだのだが、ある時期からふつりと読むのをやめた。言ってることは共感できるし、現代日本では類稀なる保守的知性であることは間違いないが、そのワンパターンに食傷したのだ。また氏が自覚的にやっていることであり意図は理解するが、天邪鬼ぶりが少々度が過ぎ、品性を重んじる保守としていかがなものかと思うこともある。 久しぶりに氏の本を読んだが「独断的」との評に同感である。というより独断的ですらないと言ったほうがいいかも知れない。丸山眞男を含む多くの論者が既に指摘していたことだが、それほど強調しなかった福澤の多面性を、氏一流の逆説で味付けし、これこそ福澤の本質だと言ってのけたに過ぎない。高校の教科書か丸山の『文明論之概略を読む』でしか福澤を知らない読者には新鮮かも知れないが、多少なりとも福澤に関心を持ってフォローしてきた者にとって、福澤の武士的気質や愛国心が開化論者としての側面と両立し得ることは、格別新たな発見というほどのことでもない。福澤における慣習の重視や私徳と公徳の相互浸透など氏独自の解釈も見られるが、そういう見方もできるという域を出ず文献的根拠は乏しい。やはり西部氏は思想家であって思想史家ではないと言うべきだろう。 評者は思想家としては丸山より西部氏を格段に高く評価するし、本書で語られる内容も福澤という主語を外して考えれば概ね同意できる。だが福澤解釈をめぐる丸山批判はほぼ言い掛かりに等しい。丸山は自分の福澤像が一面的であることは百も承知であったはずだ。それは『 福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫) 』を虚心に読めば分かる。かつての西部ファンとしては残念な作品と言わざるを得ない。本書は15年以上前に書かれており、今となっては氏の旧著に属するが、西部氏には保守の重鎮として、もう少し腰を落ち着けた仕事に専念してもらいたい。
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