近代日本と福澤諭吉 の商品レビュー
近年、各私立大学において自学史教育の重要性が叫ばれている。本書も、慶應義塾大学という日本における最古の私学における自学史教育の一環に位置づけられた「近代日本と福沢諭吉」と題する講義の副産物である。福沢諭吉が慶應義塾の創設者であることは、慶應義塾関係者はもとより誰もが知るところで...
近年、各私立大学において自学史教育の重要性が叫ばれている。本書も、慶應義塾大学という日本における最古の私学における自学史教育の一環に位置づけられた「近代日本と福沢諭吉」と題する講義の副産物である。福沢諭吉が慶應義塾の創設者であることは、慶應義塾関係者はもとより誰もが知るところであるが、「慶應に学びながら、福沢諭吉が何者であるか、全く意識せずに卒業する学生が極めて多くなってきた」(あとがき)。慶應義塾関係者ですらそうであるのだから、ほかは推して知るべし、である。したがって、一般の人々にとっても近代日本最大の知識人と言って良い福沢の多面的な活動、その思想内容、そして近代日本にどのように位置づけられるべきなのかについて学ぶべきことは多い。本書はその福沢諭吉について啓蒙を試みたものである。 目次を概観するとわかるように、福沢の医学観や法文化との関わりなど、類書にはあまり見られない視角からの福沢も積極的に論じられており、本書の特徴を形成している。逆に、宗教論や福沢が主に言論活動を展開した『時事新報』の言説分析などは章を立てて論じられてはいない。「まえがき」にもあるように、取り上げられている各分野においても重要なトピックスすべてに触れられているわけではない。また福沢諭吉の伝記・評伝ではないので、福沢の年譜的位置付けに明るくない読者にとっては、ややハードルが高い部分がなきにしもあらず、ではある。 しかしながら、近代日本における福沢の思想や行動を多面的に位置づけようとする第一次的接近という意味で本書は、学生や一般読者はもちろん、広く研究者にとっても示唆的な内容に富むものとなっている。
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