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系統地理学 の商品レビュー

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2013/10/18

系統地理学は1987年に提唱された、比較的新しい分野である。その後、飛躍的な進歩を遂げている。 生物と地理の関係については、ダーウィンの時代まで遡れる。 どんな種がどのような条件の場所にどのくらいいるかを調べることで、地理的事象を示唆する「状況証拠」も得られてきた。 これが近年の...

系統地理学は1987年に提唱された、比較的新しい分野である。その後、飛躍的な進歩を遂げている。 生物と地理の関係については、ダーウィンの時代まで遡れる。 どんな種がどのような条件の場所にどのくらいいるかを調べることで、地理的事象を示唆する「状況証拠」も得られてきた。 これが近年の分子生物学の発展によって、生物種の歴史がより詳細にわかるようになってきた。 遺伝子は、親から子に受け継がれていくものである。大まかにいえば、遺伝子に入ったちょっとした傷や特徴的な繰り返しを辿ることで、ある種が世代に渡ってどのように移動してきたか、分布を広げてきたか等がわかるようになってきたのである。 いわば、遺伝子は集団の歴史の痕跡を内包しているのだ。 本書は、いくつかの種を対象とした実際の研究事例を挙げながら、系統地理学の「今」を伝える1冊である。 最初の章はニホンザリガニである。 日本の固有種であるが、アメリカザリガニに比べて小型でおっとりしているため、すっかり外来種に追いやられてしまった形で、現在は北海道と北東北にひっそりと住む。 このニホンザリガニの遺伝子の特徴を調べていったところ、いくつかの型に分類されることがわかってきたのだが、おもしろいことに大雪山系と日高山脈を境とした北海道東部のみが別グループで、北海道西部と北東北には同じグループのものが生息しているという。 ニホンザリガニは海を渡れない。となれば、津軽海峡は昔、地続きだったことになるのではないか・・・? うっかりしていてこれは見落としたのだが、発表当時(2012年3月)、かなりメディアでも報道され、反響もあったのだという。 この研究に関しては、研究の裏話(さまざま事情があって、追加で行ったほうがよい調査ができず、論文の投稿先を変えた・・・)やプレスリリースとはどんなものか(メディア側から発表したいといってくることもあるが、この件は研究者が自分で売り込んだ、のだそうだ)など、余談も記されていてなかなか興味深い。 その他、植物の事例や、季節によって毛色を変える哺乳動物の事例など。 植物の場合には、葉緑体は基本的には母系遺伝する(但し、葉緑体捕獲といった交雑による移動も見られるので、話はそれほど単純でないようだ)。一方、核は両性遺伝するため、丁寧に調べていくと、種子の動きや花粉の流れといったこともわかってくる。 全般にはかなり専門的な話となってくるので、主な対象読者は進学先を模索中の学部学生や修士課程院生といったところか。 表紙は(ザリガニもいて!)かわいらしい印象だけれども、かなり骨がある。実際データを手にしたはよいけれど、そこから何を読み取るか。解釈していく部分が手強い。 遺伝子解析から歴史を辿るという意味では、先行しているのは何といっても人類に関するものである。本書には人類遺伝学者による、ゲノム集団解析手法の解説もついている。が、本格的に学ぶのであれば、この本ではおそらく不十分だろう。 新型シーケンサの登場により、遺伝子配列自体を得ることはどんどん容易になってきている。だが、さてこのビッグデータをどうするか。AとBは似ているのか似ていないのか、AはBから派生したと言えるのか言えないのか。 膨大な遺伝子データの解析には統計手法が必須だが、古典的な集団遺伝学の知識を習得した上で、次々に提唱される解析手法を学んでいかなればならない。新たな手法については、標準的な教科書とされるものもなく、習得は簡単ではない。執筆者によれば、これが、こうした解析法が多くの生物種に応用されにくい一因でもあるようだ(生きものが好きで研究分野を選んだけれど、数学は今ひとつ得意ではない、という人もいるだろうし・・・)。 興味深いのだが、この本を十分に読み解けた気がしないので、評価は控える。この分野、おもしろそうと思いつつ、なかなか歯が立たない・・・。 *『遺伝統計学の基礎』(オーム社・山田亮)あたりは比較的新しい解析法を組み込んだ教科書といえるのかもしれません(以前、読んだのですが、「いやはや、字面を追ったけれども」状態でレビューは書けません(^^;)。興味のある方はAmazonのなか見!検索で目次を見てみると、何となくイメージが掴めるかも)。 *『カラスのお宅拝見!』という、カラスの巣の写真集に、卵の色の分布について、興味深い記述があります。全国的に二色が分布しているけれども、局所的な偏りがある。筆者はヒトの流れと関連があるのではないかと言っているのですが、こういったことも、DNAを調べていくと、ある程度解析できるのかもしれません。

Posted byブクログ