ママと美人課長は僕の恋人 の商品レビュー
これまでの手法を逆手に取ったかの構成に妙味あり
2012年から本作を含む2013年にかけての弓月作品には「どーしちゃったの?」というくらいな淫猥さの増強が見られる。どの頁を開いてもヤリまくりといういやらしさである。現実味はやや減退したかもしれないが、官能ファンタジーとすれば読み手として嬉しいことこの上ない作者のアイデアと執筆の...
2012年から本作を含む2013年にかけての弓月作品には「どーしちゃったの?」というくらいな淫猥さの増強が見られる。どの頁を開いてもヤリまくりといういやらしさである。現実味はやや減退したかもしれないが、官能ファンタジーとすれば読み手として嬉しいことこの上ない作者のアイデアと執筆の弛まぬ努力に敬服する。 タイトルにあるママは義母(37歳)である。社会人の主人公が23歳につき、ギリギリ何とか姉弟っぽい雰囲気も出せる年齢差であろうか。むしろ職場の美人課長(31歳)との逢瀬の方が、職場の上司とは別の顔を見せる淫らな可愛らしさがあって姉弟っぽく写るかもしれないが、この課長は人妻である。夫(主人公の父)が長期海外赴任中の義母、夫婦仲は冷めているという課長……双方にぽっかり空いた穴を若き主人公が、その絶倫なムスコをフル稼働させて癒している三角関係とも言えよう。 それだけに、ママも課長も、その登場時から主人公と交わっている。職場でのちょっとした隙を突いて、あるいは帰宅後の様々な場所で、それこそ「昼は課長と夜は義母と」毎日毎晩交わり三昧な描写が冒頭から延々と続く。「アンタ達、いい大人なんだから、もぅ少しは節操というものがあっても……」とツッコミたくなるくらい、あるいは、お猿さんも顔負けなくらいの爛れた毎日である。そして、この関係が途中から相手にバレるような「黒本」典型パターンではないところに本作の妙味が1つある。冒頭からそれぞれがそれぞれに小さな嫉妬を抱きつつ関係を続けているために生まれる心の機微がスパイスとして利いているのである。 だがしかし、というか、やはりというか、さすがにエスカレートが続けば危うい場面も生まれる訳で、中盤では公私混同にもなり兼ねなかったこれまでの行為によって職場のピンチが訪れる。この顛末は読んでのお楽しみだが、現実味は乏しくも思わずグッジョブ!と言いたくなる突飛な行動には『敵に塩を送る』かのごとき胸キュン的な健気さと可愛らしさを見ることもできよう。 本作の良いところは、上記の「事件」や、その後の展開によって、そして、これまで流されっ放しの受け身でヘタレだった主人公に高いハードルが用意されることによって、それを乗り越えて成長する主人公が描かれていることであろう。「何やってんだか主人公」といった印象が中盤以降で少しずつ変化していくのは読んでいて心地良く、皮肉にもこの期間に主人公が本来の姿を取り戻して行く過程においてはママと課長がそれぞれ(理由に違いはあるものの)一時的におあずけを喰らうことで終盤がさらにいやらしくなるオマケ付きである。 従前の弓月作品(2人ヒロイン)には本命&対抗という対決構造が多かったが、本作はほぼ同等のダブルヒロインである。存在としても情交描写においてもほぼ二分された対等の立ち位置と思われる。それ故に結末もまた従前の弓月作品の多くとは趣を異にする妙味の2つ目が見られるのだが、これに加えて主人公の環境が変化するという捻りを1つ挿み込むところに本作の3つ目の妙味を見ることができる。物語の要素も相応に盛り込んでくるところは弓月作品の面目躍如であり、「実用性」とともに読み応えもあった作品と言えるだろう。
DSK
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