刑事司法とジェンダー の商品レビュー
刑事司法は性暴力事件をどのように扱ってきたかをテーマに強姦罪、強制わいせつ罪の歴史、現在の司法システム、加害者へのインタビューなどが書かれている。 加害者は当時警察官であったにも関わらず、4人の被害者を生み出した。 こういった事件を見聞きした時、動機に関する情報は、ほとんどが「性...
刑事司法は性暴力事件をどのように扱ってきたかをテーマに強姦罪、強制わいせつ罪の歴史、現在の司法システム、加害者へのインタビューなどが書かれている。 加害者は当時警察官であったにも関わらず、4人の被害者を生み出した。 こういった事件を見聞きした時、動機に関する情報は、ほとんどが「性欲を抑えきれなくて」というものだと思う。 加害者のインタビューを読んで、実態との差に驚いた。 そこには単なる性欲の強さでは済まされない原因が根ざしていると感じられた。 供述調書は作文なのだと再認してしまう。 そして加害者の残忍性を強調するために利用される「実態のない被害者像」 「将来妻になる、母になる夢を打ち砕かれた」という被害者が語ってもいない事実を持ち出し、加害者を責める検察官。つまりこの検察官がそう思っているという事。 そしてこういった勝手なイメージによって更に被害者は傷つく。 なぜ、そう決めつけるのか。こういった疑問をぶつけても明確な答えは出ないように思う。きっと「女性だから」という曖昧なものだろう。 この、世間一般に根付く「女性のイメージ」そして「性犯罪者のイメージ(性欲が強くて当然のような)」を払拭して向き合わない限り、再犯防止への道は険しいと思った。
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近年、性暴力の被害者と支援者たちによって、「レイプ神話」と言われるような、刑事司法に内在するジェンダー偏見(被害者の服装やふるまいが犯罪を誘発する、等)が明らかにされてきた。しかし、被害のリアリティにもとづく批判が積み重ねられてきたのに対し、加害の問題には十分に焦点があてられてき...
近年、性暴力の被害者と支援者たちによって、「レイプ神話」と言われるような、刑事司法に内在するジェンダー偏見(被害者の服装やふるまいが犯罪を誘発する、等)が明らかにされてきた。しかし、被害のリアリティにもとづく批判が積み重ねられてきたのに対し、加害の問題には十分に焦点があてられてきたとは言えない。著者は、警察で働いてきた経験を生かし、明確なフェミニスト視点に立って、この問題に切り込んだ。複数のレイプ加害で有罪判決を受けた元警察官に対する面接と通信を通じて、刑事司法システムの中で性暴力加害がいかに構成されるかを明らかにしている。 加害者の供述調書や裁判記録を通して明らかにされる刑事司法のあり方は、事件そのものよりも性差別的であり暴力的であると思えるほどにショッキングだ。性暴力は、性欲を満たすことができない人間のオスの生理現象から生じるものであることが前提されており、検察官や裁判官は、この制度化されたストーリーにうまくはまるように、実際の事件や加害者像を成形していく。この基盤にあるのは、「男(ヒトのオス)は性欲を満たされるべきである」という観念とともに、「女は夫の性的所有物となるべきであり、そこから外れればキズものになる」という観念でもある。 このような制度のなかで、女性に対する差別にもとづく暴力としてのレイプの側面とともに、加害に対する真の探求の機会も、また切り落とされ、見過ごされてしまうことになる。加害者は、筆者との交流の中で、何度も、自分自身の加害行為を見つめることへの恐怖を語っていた。レイプ犯は決して、ただのヒトのオスでもないし、怪物でもない。警察官として夫としてごくふつうの社会生活を送っていたこの男性が、一方では、見知らぬ女性を徹底的に非人間的に虐げることができた、その理由を分析することこそ、加害者本人の反省と更生、被害防止につながっていくはずであるのに、現在の刑事司法制度は、その機会を自ら潰しているのだ。 たいへん貴重な研究と重要な問題提起を高く評価したい。それだけに、もうすこし突っ込んだ分析と提言がほしかった。
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この本は 警察官をやめて、ジェンダー研究で博士号を取った著者の博士論文を加筆修正したもの 著者の警察学校の同期生=警察官が起こした 凶悪な連続強姦事件 自己所有の車に女性を拉致、あるいは女性宅に侵入し強姦するという事件 警察署・拘置所での面会回数は119回に及び 加害者から受信した信書は81通 本人が語った強姦の経験と、 供述調書に記された犯罪事実の大きな差 性暴力事件の裁判では、加害男性ではなく被害女性が裁かれると言われ、これまでもその問題点が指摘されてきました(そして、今も指摘され続けなければならない状態にあります) 調査から見えてきたのは、強姦は男性の性欲(=本能)によるとする前提や、加害者に対する責任追及が極めて甘く、犯罪事実の供述を得る為ならば加害者に擦り寄ることも厭わない、刑事司法の性暴力に対する認識や姿勢 ~*~*~ だいぶ、前に読み終わっていたのだが レビューを書けずにいた。 この本を読んだ方達のいろいろな感想も読んでみた。 面白かった、とか独自の視点・・・ 客観的に読む分にはそうなんだと思う しかし私自身、読み進めるうちに吐き気をもよおした それは少なからず性暴力被害にあった方達と話したり 実際に届を出すコトの難しさ それぞれの機関や社会一般の認知のずれを多少なりとも知っていたからである だからこそ、実際の取り調べで「参考供述書」のひな型に衝撃を受けた←1996年の【被害者対策要綱制定】以前に刊行されたものを使っている へ? 被疑者が現役の警察官だったがゆえ、参考になる供述調書と大きく差があれば 捜査員はまた1からやり直し 決裁も通らないと知っていたから こうだろ、と言われて はいと言った、らしい あとがきで著者がまとめるのに想像以上に長い時間がかかり、メモを読み返すだけで生々しい感情が吹き出し 分析どころではなくなった、とあった 刑事司法は犯罪の事実認定と処罰決定に限定されたシステムであり犯罪の原因を追及する場ではない しかし、普段私達が「あの事件は何故起きたか、」という問いの応答は警察による捜査や刑事裁判という形を取って刑事司法がになっている が しかし 多くの裁判官がこれまで下してきた判決が、 捜査によって目指すべき「動機」である つまり最初に【ひな形】ありき 捜査においては、強姦行為の犯行動機は性欲を満たすためでなければならない 被疑者の語る動機が、裁判官や、裁判官の心証をあてにしている警察官や検察官によって理解しがたいものであった時、それは動機としては認められない というカラクリ そして警察官である被疑者は 性暴力の被害性をよく理解していたがゆえ 犯行の隠匿(被害申告を阻止すること)のために利用された 強姦されたうえ 被害者の写真を取るコトで被害届を出さないように 「汚された被害者」という社会のまなざしを前提にした スティグマの付与 検察官は論告で、被害者の受けた被害性をこう言った 「本件の強姦被害者は、いずれも、近い将来、妻となり母となるはずの若い女性たちであり、ささやかに生活していながらその夢を打ち砕かれ、将来にわたって生涯忘れることのできない大きな傷を負わされたものであって被害者らの受けた精神的及び肉体的苦痛は計り知れない程重大」 *被害者はだれ一人、そんなことは言っていない* 刑事司法において再生産される「スティグマ」が 加害者の犯行を容易にし、更なる犯行を生む「資源」となっている 註訳がとても丁寧に書かれているので 誰が何を言ったか、そこに隠されているジェンダーバイアスも浮かび上がってくる 性暴力は女性の問題として扱われている。 事件が起これば加害男性ではなく、女性が被害を防げたか否かが問われる。 守られるべき対象と法が関与しない対象に 女性が経歴や属性によって引き裂かれてしまう 守られるべきも女性なら、守るべきも女性。いつも問題になるのは女性、女性、女性、だ。対立させられ、消耗し、解決策を出すことまでもが求められる。 その一方で、男性は?加害者は?あるいは捜査員は? 問われるべきは彼らではないのか。(あとがきより) それぞれに位置する人達の立ち位置・・・温度差と溝 被害者、加害者 警察 司法 更生施設もろもろ そしてこの社会にいる私達、ひとりひとりにむけた 問題提起である 自分が、女性で被害に遭ったら、 身近な大切な人が被害に遭ったら、と考えながら 読むと・・・複雑になった
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これは、再犯する。 性犯罪加害者に対する論文を元にした本なのだが、読んで驚いた。 加害者が犯行を外側でしか認めていない。 自分がどのような罪を犯したのかをテンプレートでしか認めていない。そして警察側はそれを助長し、刑務所側も再犯防止プログラムを適用出来ていない。 これ...
これは、再犯する。 性犯罪加害者に対する論文を元にした本なのだが、読んで驚いた。 加害者が犯行を外側でしか認めていない。 自分がどのような罪を犯したのかをテンプレートでしか認めていない。そして警察側はそれを助長し、刑務所側も再犯防止プログラムを適用出来ていない。 これを読んでいると、女性は人間と言うより価値ある財産であり、性行為によりそれが損なわれる……と読み取れてしまう。著者はそれをスティグマと呼ぶのだけれど。これだけの様式化された捜査が氾濫すれば、悪意なくそうなるだろうな、と思う。 まず、やったことをきちんと認める。それすら出来ていないとは恐ろしい。 ちなみに、強姦罪は女性にしか適用されないそうです。 それもどうなんだろう。
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警察学校の同期が連続強姦魔のひとの博士論文。その事件と被告を中心とした分析。非常におもしろい。性犯罪と司法制度に関心あるひとは必読。
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