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湯浅泰雄全集(6) の商品レビュー

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2022/05/05

『ユングと東洋』上下巻(人文書院、1989年)を収録しています。 著者の「ユング研究三部作」の第三弾ですが、個人的には、前二著とくらべて得るものがすくなかったように感じてしまいました。第一作『ユングとキリスト教』では、物理の彼岸に形而上学的な原理をさぐる「メタ・フィジカ」と、「...

『ユングと東洋』上下巻(人文書院、1989年)を収録しています。 著者の「ユング研究三部作」の第三弾ですが、個人的には、前二著とくらべて得るものがすくなかったように感じてしまいました。第一作『ユングとキリスト教』では、物理の彼岸に形而上学的な原理をさぐる「メタ・フィジカ」と、「たましい」の彼岸の原理を求める「メタ・プシキカ」の対立という西欧精神史の大きな枠組みのなかで、ユング心理学の意義が考察されていました。つづく『ユングとヨーロッパ精神』も同じような枠組みにのっとりながらも、朱子学の形而上学の特色などにかなり立ち入った考察を加えており、一冊の本としてのまとまりには欠ける印象は否めないものの、新たな著者の研究の成果が十分に盛り込まれた著作となっていました。 さて、それにつづく本書ですが、やはり「メタ・フィジカ」と「メタ・プシキカ」の対比という枠組みが採用され、ヨーロッパの知性において異端視されるユング心理学の立場が、東洋思想に近いものであることが論じられています。しかし、著者自身これまで何度もとりあげ、定方晟とともに翻訳も刊行している『太乙金華宗旨』にかんする考察は、目新しさに欠けます。また、ユング晩年のシンクロニシティにかんする研究に触れ、パウリやボームらの物理学者との接点について論じている箇所は、著者自身もいまだはっきりとした見通しが得られていないためか、明確な議論の筋道をたどることが難しいように思えました。

Posted byブクログ