ファスビンダー、ファスビンダーを語る(第1巻) の商品レビュー
「映画をつくりたかったし、つくるのはわかってた」とライナー・ヴェルナー・ファスビンダーは述懐する。まだミュンヘンの街が「西ドイツ」と呼ばれる分断国家の一都市だった1960年代末、バイエルン方言での上演を特色とする演劇集団アクション・テアーター(のちのアンチテアーター)に、ひとりの...
「映画をつくりたかったし、つくるのはわかってた」とライナー・ヴェルナー・ファスビンダーは述懐する。まだミュンヘンの街が「西ドイツ」と呼ばれる分断国家の一都市だった1960年代末、バイエルン方言での上演を特色とする演劇集団アクション・テアーター(のちのアンチテアーター)に、ひとりの若者が入団した。「こんな大所帯が食ってけるわけないだろ。で、みんなで一緒に食べ物買って、食事も一緒にしようとしたんだけど、その結果、みんな劇場に居つくようになってしまったんだ。」 ファスビンダーのインタビュー本『Fassbinder über Fassbinder』が邦訳された(ローベルト・フィッシャー編 明石政紀訳 boid刊)。原書でおよそ700ページ、この日本語版は3分冊で刊行される予定だが、とりあえず第1巻の誕生である。この第1巻の8割以上の紙数を占めるのは、1973年4月、デンマークの女性ジャーナリスト、コリナ・ブロッハーによって五夜にわたり、旅の宿の先々でおこなわれた超ロングインタビュー「グループでなかったグループ」である。初期演劇活動、そして初長編映画『愛は死より冷酷』(1969)から『聖なるパン助に注意』(1971)にいたる初期の映画製作についてが語られる。そしてこの「グループでなかったグループ」は、映画作家インタビュー史上、もっとも過激に率直に作家の口語を、生の声を伝える画期的なものとなっているのだ。 ファスビンダー「あのころの見方で話すのを求められても困るんだ。そうはできないんだ」 イングリット・カヴェーン(カーフェン)「ええ、先をつづけて」 ファスビンダー「そんなに寛大ぶるなよ。先をつづけてなんて……」 カヴェーン「なにを言えばいいのよ。それじゃ中断しちゃうじゃない」 ファスビンダー「中断しちゃうとはどういうことなんだ。テープはたんまりあるんだ。もう一本テープ回してもいいくらいなんだ」 カヴェーン「でも、ぜんぶ終える必要があるんでしょ」 ファスビンダー「終える必要なんかないよ。今夜ぜんぶ終える必要があるなんて、だれが言ったんだ。そんなの馬鹿げてる。混乱してるって言うんなら、いったいどこが混乱してるのか興味があるんだけどね。(後略)」 …このやり取りはすでに、ファスビンダーの映画そのものだ。本書は、ファスビンダーの幻の新作そのものだ。
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