変 の商品レビュー
「学歴や学位が、作品以上に自分の力になることはない。」 作中での作者の言葉だ。莫言の経歴については、wikiやそれぞれの小説のあとがきに記載されている情報以上には知らなかった。ただ相当な苦労人だったんだろうと、貧困に苦しむ姿を漠然と頭の中に思い描いて同情していただけだった。まさ...
「学歴や学位が、作品以上に自分の力になることはない。」 作中での作者の言葉だ。莫言の経歴については、wikiやそれぞれの小説のあとがきに記載されている情報以上には知らなかった。ただ相当な苦労人だったんだろうと、貧困に苦しむ姿を漠然と頭の中に思い描いて同情していただけだった。まさか自伝小説が、中国国内からではなく海外から出ているなんて思いもよらなかった。 「自分のことを好きなように書いていいと言われたからには断ることなどできなかった。しかし、筆をもってみて初めて、自分の思い通りに書くことなどできはしないことを知った。」 この言葉が示す通り、本作は淡々と事実を羅列していくような場面が多く、その筆致はどこか不自然というか、力は入っていないのにぎこちない。フィクションの中であれだけ自由に羽を広げて飛び回ってみせる大作家が、自己を好きなように語るとなると急にしおらしくなってしまうというのも面白い話だ。このため本作には演出において物足りなさもあるが、より現実的な作家の半生とその素朴な感性を楽しめるようになっている。 小学五年生、そんな対して文字も知らない年齢で学校から放り出されてしまうというのはどんな気持ちなのだろうか。想像もつかない。ただ一つ言えることは、そこから這い上がって国を代表する作家になり、ノーベル文学賞を受賞するということは、針の穴に駱駝を通すことの何倍も難しいだろうということだ。冤罪で小学校を除籍になり、貧困から抜け出すために軍隊に入り、職務を全うしながらも様相が変わってしまうほど勉強に励み、本を読み続け、一度相手にされなくても何度も文芸誌に小説を投稿し続けた結果掴み取ったのが彼の今の地位なわけだが、直接本人の筆から淡々と語られると一層胸に染み入るものがある。小説が売れ生活が豊かになってコネも手に入れた氏が、北京師範大学の大学院に入学する場面では、その純粋な喜びの表現に心を洗われるであろう。地位や名誉のためではなく、純粋に勉強をしたいと願う人の心ほど清らかで美しいものはないだろう。 未完成にみえるほどぎこちない本作だが、二人の主人公を配した構成はなかなかに趣が深い。一人はもちろん我らが莫言、もう一人は貧農出身の悪餓鬼「何志武」だ。 『豊乳肥臀』などでもそうだが、莫言の作品において貧農出身者は悪党として描かれることが多い。しかし今回は、莫言と同じく学校を放免になりながらも一代で財を築き上げた英雄としてこの貧農を描いている。 この二人の人生は本当に対照的で面白い。著者が望まぬ退学を強いられたのに対して、何志武は教員を小馬鹿にし、自らの意思で学校を去っている。莫言が真面目に働いて勉強を続けて成功を勝ち取ったのに対し、駆け引きに長けた何志武は知恵と度胸で難局を切り抜け、自ら事業を起こして名を上げて見せる。親の財力や学歴、都市部に住んでいるかどうかでその後の人生が決まると言っても過言ではない過酷な中国において、まるで古典の中の人物のような方法で成功を勝ち取った二人を記すことで著者は何を伝えたかったのだろうか。対照的な何志武という人物を引き合いに出すことで、自身の人生を相対化したかったというのも作者の意図にはあると思う。ただ、莫言のコネを利用して更に事業を広げようとする何志武を、最終局面でやんわりと拒絶するところを記したあたり、そういった中国の悪しき文化とは距離を置こうとしている自分自身を描きたかったのかもしれない。本作の筆致のように、遠慮しがちな語り口で。 初めて莫言を読もうとする人より、何冊か既に読んでいて、著者のことをもっと深く知りたいと思った人におすすめだ。創作と自伝では同じ作家による小説も言えどもここまで違うのかと思わせてくれる一冊。
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ノーベル賞作家、莫言の自叙伝的小説。『紅い高粱』や『豊乳肥臀』『白檀の刑』など作品を読んできたがどれもハズレがない。本作は、ノニーノ国際文学賞受賞時にイタリアで出版社にせがまれて書いたものだという。短編のようなサイズ感だが、さすが天才と思わせるようなシーン展開や情景描写。読み応え...
ノーベル賞作家、莫言の自叙伝的小説。『紅い高粱』や『豊乳肥臀』『白檀の刑』など作品を読んできたがどれもハズレがない。本作は、ノニーノ国際文学賞受賞時にイタリアで出版社にせがまれて書いたものだという。短編のようなサイズ感だが、さすが天才と思わせるようなシーン展開や情景描写。読み応えがある。 中国の文化、中国人の気質について、日本人は少し誤解しているかも知れない。私は中国人と縁があって長く付き合ってもいるが、彼らの人と人を軸とした関係構築の逞しさ、反面には社会制度への不信に由来するのだが、身近な者を大切にする距離感や文化は日本とは対極的にも感じる。そうした中国らしさが話に盛り込まれる。 そもそも、日本では小学生を学校から追放したり、殴ったりもしない。勿論、今の中国ではなく、戦後の古く貧しい中国の話だが。どこまで事実かは分からないが、小説であるため、詳述は避けておく。とにかく、薄いページ数の割りに莫言の良さを失っていない良作だ。
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中国籍作家として初めてノーベル文学賞を受賞した人の自伝的なお話。 語り口調で進み、読みやすかった。 混沌とした時代を生きた作者の生き様を感じた。
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中国のノーベル賞作家の自伝的小説ということで挑戦してみた。予想に反して読みやすくてひきこまれた。まるで青春小説のようで、フィクションも含まれているようだが小学生のころの逸話は面白すぎて笑いながら読んだ。中国の歴史的背景に詳しければさらに楽しめるはず。その部分は少し難しかった。
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初の莫作品だが、ノーベル賞作家云々を抜きにしても直ぐに引き込まれた。 もっと重いテーマの作品を読んでみたい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
敢えて批判的言辞を弄するまでもなく、淡々とした会話描写それ自体がそのまま現実批判になっている。 →なるほど、そういう手法もあるのか。確かにわざわざ言うまでもないことを言語化するのは無粋な時が時々ある。 なぜ断らないのか。それはもちろん、つらい境遇の魯文莉の心情を汲むという面があると同時に、そうしたやり方が、現今の中国の慣習だからであり、小説では敢えて金を預かることによって、逆に社会批判が成り立つのである。 →すごい読みだ。
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莫言の本をやっと読む。 莫言の自伝的物語。 莫言は 小学校の時に 放校処分に合う。 1969年のはなしで、劉天光先生は 口が大きかった。 それで、劉ガマとか 劉カバ と名付けたのが 莫言で、 そのことで放校になったという。(ちょっとありえないけど) 同級生で 何志武と魯文莉がいた...
莫言の本をやっと読む。 莫言の自伝的物語。 莫言は 小学校の時に 放校処分に合う。 1969年のはなしで、劉天光先生は 口が大きかった。 それで、劉ガマとか 劉カバ と名付けたのが 莫言で、 そのことで放校になったという。(ちょっとありえないけど) 同級生で 何志武と魯文莉がいた。 魯文莉は、卓球の選手でチャンピオンとなり、かわいい子だった。 父親は トラックの運転手で ソ連製のグリーンのCAZ51 に乗っていた。 そのトラックは 朝鮮戦争の時に活躍して、未だに走っていた。 また、トラックの運転はその当時でも珍しく、地位も高かった。 何志武は 魯文莉が 好きで 何になりたいと言う作文で 『俺には他に理想はない。たったひとつの理想があるだけだ。 俺の理想は 魯文莉の父親になることだ。』と書いたことが みんなから 笑われ 先生からも追求された。 そのため、何志武は、学校をそのまま出て行ってしまった。 莫言と比べても、決断力があり、思いっきりのいい子だった。 莫言は 工場で働いたり、軍隊に応募したりして、 人民解放軍に 入ることができた。そこで、トラックCAZ51 に合う。 莫言は 運命的な出会いを感じ、運転手になることを夢み、 また、北京まで 行ったりした。 莫言は 本が好きで いろいろと本を投稿したりして、 評価されるようになって、大学に入る。 さらに 『紅いコーリャン』が 張芸謀によって 映画化されることになり 有名となった。 時は流れて 何志武 は 怪しいビジネスをして成功し、 魯文莉は 結婚し、子供を産み、そして 未亡人となり、 劉カバ先生と再婚したりした。 莫言は 何志武と魯文莉 にあうのだった。 中国の 特色的社会主義に変化していく中で それぞれが 変化した人生を歩み 交差する。
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2012年のノーベル文学賞が村上春樹ではなく莫言だとわかった時、ネットでは僻みもあっただろうか、穿た見方をする論者を見たのを思い出す。つまりは、莫へのノーベル賞授与は言論統制の国で生きる彼への助け船であり、より反政府的な小説を書きやすくさせるためのものだというようなものだった。こ...
2012年のノーベル文学賞が村上春樹ではなく莫言だとわかった時、ネットでは僻みもあっただろうか、穿た見方をする論者を見たのを思い出す。つまりは、莫へのノーベル賞授与は言論統制の国で生きる彼への助け船であり、より反政府的な小説を書きやすくさせるためのものだというようなものだった。この作品は莫にとっての自伝的な小説だが、少なくともそのような感じはしない。むしろ、中国の近代史を危うげない形で辿る中で、郷愁に浸るような繊細な作品だ。それなり面白く読んだ。
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莫言が自らの子ども時代から若者時代を中心に描いた作品。150頁弱と短く読み易い。 たいへん面白く読めた。
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黄色に大きく『変』でひどく目立ち、よくよく見ればあのノーベル賞作家ではないか! 変、だなんて、どんなストーリーを書く作家なの?と興味本位で手に取れば、英語でchangeと添えられており、ちょっとがっかりする。あ、そっちの変か…。 彼の自伝的小説だとのことだが、文章は軽快な感じで...
黄色に大きく『変』でひどく目立ち、よくよく見ればあのノーベル賞作家ではないか! 変、だなんて、どんなストーリーを書く作家なの?と興味本位で手に取れば、英語でchangeと添えられており、ちょっとがっかりする。あ、そっちの変か…。 彼の自伝的小説だとのことだが、文章は軽快な感じで、手記っぽくもエッセイっぽくも読める。 文化大革命の激動の中国から現在に至るまで、国に翻弄されて生きてきた自身を振り返りつつ、変わり続ける中国をも炙り出そうという気概が感じられる。 読者に語りかけるような表現が、独特でありながら思いのほか読みやすく、中国の歴史はからきしダメな私にも、当時の雰囲気が何となくイメージできてくる。 中国の変化という大きなテーマに見せておきながら、その実、著者の思い出を瑞々しくも描き出した青春の物語とも読める作品。
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