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批判的想像力のために の商品レビュー

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2013/02/23

著者はイギリス生まれでオーストラリアに住み、配偶者が日本人で、日本経済・社会について研究している人らしい。このため、外部からの視線を維持した日本社会論になっており、他国との比較の点で公平さを持っているように見える。 「東アジアにおける歴史をめぐる戦い」の章においては、私にとっても...

著者はイギリス生まれでオーストラリアに住み、配偶者が日本人で、日本経済・社会について研究している人らしい。このため、外部からの視線を維持した日本社会論になっており、他国との比較の点で公平さを持っているように見える。 「東アジアにおける歴史をめぐる戦い」の章においては、私にとってもかねがね憎むべき右翼イデオローグで、日本国民の右傾化に多大に作用した「新しい歴史教科書を作る会」が吟味され、徹底的に批判されている。彼らの作った歴史教科書は、結局公正な視点を欠き、欠点だらけの愚劣なシロモノにすぎない。 しかしそこから頭角をあらわした西尾幹二だの小林よしのりだの、ロクでもない偏屈な右翼の人脈は、石原慎太郎や橋下徹だのといった現在の低レベルなイデオローグに続いている。こうした稚拙な流れは、なぜか国民の人気を得て、確かに「古いナショナリズム」への退行をかたちづくっているようだ。マイノリティである私にはとうてい理解できないことだが、日本国民はもうすぐ中国との戦争を望むようになるのだろう。 本書では、ナショナリズムを世界的な現象としてとらえられており、それは経済的グローバル化の進展と平行して生起しているという。 私はレヴィ=ストロース的な意味で「多文化主義」を支持してきたが、この本の中では素朴な多文化主義にも疑義が呈されている。 ジョエル・バーバールという人が、「文化」という概念がそもそも混成を語っており、多文化主義なる語句自体が重複しているというのだ。 しかし「国民国家」や民族主義が偏狭で排他的に横行している状況では、多文化主義政策は倫理的に意味をもちうるだろう。 北海道のアイヌはすでに倭人=ヤマトンチュと混血を繰り返しているし、アイヌの血の濃そうな人々も、「ふつう」の服を着て、「ふつう」に生活している。民族衣装や伝承的な踊りは、観光客相手か、文化保護の観点で行われるイベントでしか登場しない。 アイヌにアイデンティティを置く人々は、好きなようにしたらいいし、そうしたければ伝統の民族衣装を着て街を歩くのもかまわないと思う。それを阻害したり迫害したりするような制度や風潮があるならば、多文化主義政策が必要になるだろうし、「日本国民」に根深い島国的な同胞主義をもっと寛容なものに変えるべく運動しなければならないだろう(「ガイジン」に対しても不寛容すぎる!)。 「文化」という概念もまた「幻想」ではあるが、幻想はそれが口にされる場においては実在となる。 政治的・社会的な問題というのは難しい。この本はもっといろんなことを考えなければいけないことを教えてくれた。

Posted byブクログ