無地のネクタイ の商品レビュー
晩年の作品であり、話題としても記憶に被る時事にまつわるものも。 キャリアに絡む専門分野の核も変わらず保ちながら、やはり広範な話題を取り上げている。
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晩年のエッセイということもあってか、時事的な話題について厳しいし直截的な表現が目立つ。しかし最後まで丸谷才一であった。
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丸谷才一の雑誌に連載していたエッセイで最後の単行本になるのだろう。オール読物連載の路線の方が好みだが、文明のために論陣をはる「武張った」エッセイも悪くない。「オール読物」系も「図書」系も、もう読めないと思うと寂しい。
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丸谷才一がPR誌「図書」に連載していたエッセイをまとめたもの。 やはり、言葉に対して真摯に向き合う丸谷氏ならではのエッセイ。 自分のカル~イ文章に、いたく反省。そして、打つ牛い日本語を伝える事の難しさを痛感。貴重な方が亡くなってしまったと実感。
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作家が亡くなると、関係のあった出版社からは追悼の意味も含め、版権を所有する原稿を集めて遺稿集のような本を刊行するのが常で、これもそのひとつ。岩波の雑誌『図書』に掲載されていたエッセイを集めたものである。同じエッセイ集にしても『オール讀物』に拠るそれらとは少しく色合いが異なる、解説...
作家が亡くなると、関係のあった出版社からは追悼の意味も含め、版権を所有する原稿を集めて遺稿集のような本を刊行するのが常で、これもそのひとつ。岩波の雑誌『図書』に掲載されていたエッセイを集めたものである。同じエッセイ集にしても『オール讀物』に拠るそれらとは少しく色合いが異なる、解説で池澤夏樹も言うように「武張っている」のだ。軽妙洒脱にして、博覧強記の中に下品にならない程度の色気、というのが丸谷才一のエッセイの持つ妙味だが、この本に集められた諸篇には出版社とその読者を意識してか、世の中に一言申しのべたきことあり、というスタイルをとるものが多く、どちらかといえば「大人」に似つかわしくないと思うのだが、その中からひとつ採るとすれば、「私怨の晴らし方」という一篇。 ボルヘスがペロン嫌いだったことを簡単に説明した後、彼の『まねごと』という短編を紹介する。妻のエバの人気があって大統領になれたペロンはエバの死を境に失脚するのだが、そのエバの死後、アルゼンチンの村には、棺に見立てた段ボール箱に金髪の女の人形を入れ、喪服の男が傍らに立つ小屋がけの見世物が立ったという。入場者は喪服の男に哀悼の意を表し、ブリキの箱に二ペソの銅貨を払うというものだ。これは実話だと書いた後の文章を引用している。 それは言わば、ある夢の影であり、『ハムレット』の劇中劇のようなものである。喪服の男はペロンではなく、ブロンドの人形はその妻のエバ・ドゥアルテではなかった。しかし同様に、ペロンはペロンではなく、エバはエバではなかった。 オリジナルなきコピーであるエバとペロン、すべてはコピーでしかないラテン・アメリカに限らぬ独裁者の姿を描いて見事な一篇だが、これを私怨の晴らし方の素晴らしい例とした上で、わが鷗外の『空車』が当時売り出し中の武者小路に対する私怨から書かれた物であるという松本清張の説を支持していわく、「出来が悪いし無内容である。もう一工夫あって然るべきだった」と結ぶ。知の巨人と比べられては、さしもの大文豪も形無しである。ボルヘスのペロン嫌いに自分の軍人嫌いを重ねながら、論旨の展開に、ボルヘス、鷗外、松本清張と斯界の大御所を並べてみせる豪勢さは流石。 表と裏に、シリーズタイトルから採られた無地のネクタイとバオバブの木のイラストが花を添える。名コンビである和田誠との顔合わせもこれが最後かと思うと、やはり哀しい。
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