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幽玄・あはれ・さび の商品レビュー

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2020/05/14

『幽玄とあはれ』(1939年、岩波書店)と『風雅論―「さび」の研究』(1940年、岩波書店)の二作を収録しています。 本書に収録されている二つの著書は、日本の伝統的な美的価値である「幽玄」「あはれ」「風雅」などの概念について、美学的な観点から考察をおこなった著作です。「幽玄」に...

『幽玄とあはれ』(1939年、岩波書店)と『風雅論―「さび」の研究』(1940年、岩波書店)の二作を収録しています。 本書に収録されている二つの著書は、日本の伝統的な美的価値である「幽玄」「あはれ」「風雅」などの概念について、美学的な観点から考察をおこなった著作です。「幽玄」にかんしては藤原俊成や定家、正徹らの歌学が、「あはれ」にかんしては本居宣長の思想が、そして「風雅」「さび」にかんしては松尾芭蕉の俳諧が参照されていますが、著者はそれらを文学的な関心にもとづいて考察するのではなく、美学的関心にもとづいて考察しています。たとえば宣長の「あはれ」にかんする議論に鋭い分析が見られることを認めつつも、それらがもっぱら心理学的な観点から見られた美的価値の考察にとどまっていると著者は不満を表明し、その形而上学的意義を掘り下げていきます。 その結果著者は、「美」「崇高」「フモール」の三つを基本的な美的カテゴリーとする独自の美学体系を構想しており、「あはれ」は「美」の、「幽玄」は「崇高」の、「さび」は「フモール」の、それぞれ派生的な美的カテゴリーとして規定します。 著者の美学体系の全体像については、主著である『美学』上下巻(弘文堂)を参照するべきなのでしょうが、著者が日本の伝統的な美的価値についての議論をどのように読み解いているのかということについては、本書でくわしい検討がおこなわれており、文学や精神史などの側面から美学・形而上学へいたる通路がどのように開削されていったのかということが明瞭に示されているという点では、興味深い内容を含んでいるように感じました。

Posted byブクログ