大理石像/デュランデ城悲歌 の商品レビュー
19世紀ドイツの後期ロマン派に属する詩人・小説家アイヒェンドルフ(1788-1857)の短編二話。 □ 大理石像(1826年) 月の光が形象に淡くまぶした夢幻を、朝の陽光は粗い手触りで暴力的に引き剥がす。夜の闇の遣り切れない優しさと憂愁に沈んでこそ育まれる精妙な美的不安もあ...
19世紀ドイツの後期ロマン派に属する詩人・小説家アイヒェンドルフ(1788-1857)の短編二話。 □ 大理石像(1826年) 月の光が形象に淡くまぶした夢幻を、朝の陽光は粗い手触りで暴力的に引き剥がす。夜の闇の遣り切れない優しさと憂愁に沈んでこそ育まれる精妙な美的不安もあろうに、朝は偏平足のように押し付けがましい笑顔でその陰翳を平板に塗り潰していく。夜の深淵を覗き込んでしまった者に、朝は余りにも卑小だ。しかし、夜の美的な鬱屈は世界との無の懸隔に肌が寂しく、朝の清々しく伸びやかな屈託の無さに、憎悪と裏腹の憧憬を捨てきれない。 「泉よ、そんなに声高く語るな/朝にこれを知らしてはならぬ/月夜の静かな波のなかへ/私はひそかな幸福と憂いを沈める」 □ デュランデ城悲歌(1837年) 人間の内にこそ暗いデモンが棲まう。如何ともし難い力動が人間を食い破り、人間を乗っ取り、狂奔し、突き抜けた先に破滅が待つ。 「しかし君は胸のなかに野獣を目覚させないように気をつけたまえ。でないと、野獣はたちまち躍り出して、君自身を引き裂いてしまうから」
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