考古学者は名探偵 の商品レビュー
私はこの10年間ずっと考古学者こそ見事な探偵小説を書けると信じて来た。考古学者の仕事はそのほとんどが探偵の仕事に被るからである。手掛かりはいつも現場にある何気ない土器片だったり、ほんの僅かな証言(文字)だったり。そこから、未だ誰も見たことのない古代の姿を「推理」し、「証明」するさ...
私はこの10年間ずっと考古学者こそ見事な探偵小説を書けると信じて来た。考古学者の仕事はそのほとんどが探偵の仕事に被るからである。手掛かりはいつも現場にある何気ない土器片だったり、ほんの僅かな証言(文字)だったり。そこから、未だ誰も見たことのない古代の姿を「推理」し、「証明」するさまはまさに名探偵なのではないか、と。しかしながら、この間、考古学者崩れの書いた推理小説は酷く(「葬神記」化野燐)、考古学をテーマにした有名探偵が登場する推理小説はさらに酷く(「吉備 古代の呪い」西村京太郎)、私は正直ガックリと来ていた。その時にたまたまこの本に出会い、見出しを見ると「おっ、考古学そのものを推理小説に見たてて謎を解こうとしているぞ」とドキドキして図書館から借りたわけです。 ところが、本と映画は見て読んでみないことにはホントわからない(ダジャレじゃないです!)。 著者は2012年に退職したばかりの美術考古学を専門にする大学教授だった人です。この本の内容は多分、あまり出来のよくない学生に「考古学とは何か」を教える時に作った考古学概論のレジメをそのまま援用したものだと「推理」します。根拠は三つ。一つは、序章にそれこそドキドキする世界の発掘ベストテンの記事があるのに、全然「謎解き」ではなく単なる紹介になっていること。一年の授業の最初の2-3回をこれに充てたのでしょう。一つは、第一〜第六章は完璧に考古学概論そのものだということ。見出しだけは「探偵」の文字が踊っています。一つは、最後の方でやっと「則天文字の謎」とか、彼の専門分野を詳しく書いていますが、まるで専門書を読むようであり、エンタメにはなっていません。そのあと、終わりの終わりに少しだけ推理を書いていますが、「謎」が全然魅力的ではない、謎解きの過程が具体的ではない、これは単なる学問解説であるということです。 2013年4月23日読了
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