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パンデミック新時代 の商品レビュー

3.8

10件のお客様レビュー

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2021/10/06

感染力と致死性が高いウイルスは、人間にとって脅威だ。この微生物は、一体どのようなものなのか?なぜパンデミックを引き起こすのか?気鋭の生物学者が、ウイルスの謎に迫る書籍。 ウイルスは、19世紀後半に発見された。ウイルスはラテン語で「毒」を意味し、既知の微生物の中で最小である。11...

感染力と致死性が高いウイルスは、人間にとって脅威だ。この微生物は、一体どのようなものなのか?なぜパンデミックを引き起こすのか?気鋭の生物学者が、ウイルスの謎に迫る書籍。 ウイルスは、19世紀後半に発見された。ウイルスはラテン語で「毒」を意味し、既知の微生物の中で最小である。110年前に発見されたばかりなので、まだわからないことが多い。 ウイルスは、あらゆる細胞生命に宿っており、海にも陸にもどこにでもいる。その数は膨大で、海水1mlあたり2億5000万のウイルスがいた、との研究報告がある。 ウイルスは、既知の生物の中で最も頻繁に変異する。そして大量の子孫を作ることで、親よりも強い子どもが出てくるチャンスを増やす。それによって、新薬に勝つ可能性が高まり、種の異なる宿主に飛び移る能力も獲得しやすくなる。 SARS(重症急性呼吸器症候群)は、2003年に香港を訪れた中国・広東省の男性(スーパースプレッダー)から拡散した。香港の人口密度は高く、野生動物を食べる習慣のある広東省からの交通の便も良い。 このような、高い人口密度、野生動物などが持つ微生物との接触、効率的な交通網が重なる時、新しい病気が現れやすい。 現在の畜産は、大規模な飼育場に多くの家畜を詰めこむ形で行われている。この「工場畜産」は経済効率がいい反面、微生物に大きな影響を与え、パンデミックのリスクを高める。 これからはパンデミックの脅威がますます強くなる。これまで出会わなかった微生物同士が遭遇し、遺伝情報の組み換えが行われ、新しい病原微生物が生み出される可能性がある。 新しい感染症の波を予測し管理する方法を学ばなければ、私たちは手ひどく打ちのめされるだろう。

Posted byブクログ

2020/07/17

著者のネイサン・ウルフは 「ウイルスハンター」と呼ばれるアメリカの生物学者。 生物学のインティ・ジョーンズのような存在だ。 彼はアフリカやマレーシアなどでの現地調査を経て  パンデミックの防止のために 終身在職権を持つUCLAの教授職を捨て 「世界ウイルス予測」(GVF)を立ち...

著者のネイサン・ウルフは 「ウイルスハンター」と呼ばれるアメリカの生物学者。 生物学のインティ・ジョーンズのような存在だ。 彼はアフリカやマレーシアなどでの現地調査を経て  パンデミックの防止のために 終身在職権を持つUCLAの教授職を捨て 「世界ウイルス予測」(GVF)を立ち上げた。 2019年にはこの組織をMetabiotaという組織に シフトさせている。 https://metabiota.com/ 新型コロナのパンデミックの最中にいる今 2011年に刊行されたこの本を読むと 世界がいかに手を打ってこなかったかがわかる。 ウルフたち研究者の警告にも関わらず 世界諸国はパンデミック防止に失敗したのが 現在のこの惨状だ。 これはいまや世界の喫緊の課題となった 環境問題とも相通じる。 この本が面白いのは 野生動物に由来するウイルスが いかに広がり 人間を脅かすようになったか 人類の歴史との生物学的な関係が わかりやすく書かれているからだ。 チンパンジーは肉食で 他の小型の猿や  時には人間の乳児までを捕獲して食べるが それはたんぱく源として チンパンジーを含む 野生動物を狩って食べないと生きていけない アフリカの貧しい人々の姿と重なる。 動物はそれぞれの微生物ワールドを持っているが それらを殺し 血液に触れ 食べることで 他の生き物に取り込まれる。 かつて 人間が家族と森で暮らしている時代は たとえウイルスに感染しても  その中で完結するので 感染が拡大することはなかった。 しかし やがて人間は森から草原に出て 農耕を始めると集団が拡大する。 火を使うようになり 動物の飼育も始める。 他集団との関わりができると道ができる。 やがて 移動手段が発達し 人とともにウイルスは その住処を急速に拡大させていく。 つまり文明の進歩こそが ウイルス感染を 拡大させたわけだ。 コロナ禍で「集まること」「人と接触すること」が 禁じられ 警戒されている現状を見ると 人間がもう後戻りできない危険ゾーンに 入ってしまった絶望感を感じざるを得ない。 環境問題も然り。 ひとつ気になったのは ウルフ氏がウォッチしてきた 国として中国が上がっていないことだ。 今回の武漢での発生をどのようにかんがえているのか 知りたいのだが 残念ながら そのような記事は見当たらない。 だが先月のWIREDの記事にウルフ氏が登場している。 「パンデミックから経済を守ることはできる。  なぜそれができなかったのか」 https://www.wired.com/story/nathan-wolfe-global-economic-fallout-pandemic-insurance/ ウルフ氏は自身の試みが失敗に終わる可能性を 認めているが めげずに これからも活動を続けてほしいと願うばかりだ。 コロナ禍の最大の問題は 「感染防止か経済か」に尽きるとも言えそうだが すべては自業自得。私たちが作りだしたものだ。 バイオテロやバイオエラー (謝ってウイルスが研究所などから漏れること)の 危険も常にあるという。   研究者たちは今も アフリカや東南アジアで 命をかけて現地調査を行っている。 ウルフ氏も調査の中で 3度もマラリアに罹ったという。 その情熱と献身的な姿勢は感服の念に堪えない。

Posted byブクログ

2020/02/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

新型肺炎のコロナウイルスのニュースで持ちきりなので、たまたま目に入った本書を読んでみたが、文句なしに面白かった。 著者は、アメリカのUCLAの終身在職権の教授職を辞して、パンデミックを防ぐためのGVFなる組織を立ち上げた人物だ。 なぜ、パンデミックは起こるのか。多くのパンデミックは人間とかかわりの深い哺乳類、とくに霊長類から種の壁を乗り越えてやってくるという。著者はもともと霊長類に興味があり、もともと霊長類の感染症から研究の世界に足をふみいれただけあり、チンパンジーの観察の話がでてくる。チンパンジーは、他の種の小さな猿を狩って捕食するのだ(ちなみに狩りをする類人猿はヒト、チンパンジー、ボノボのみで、系統的に少し離れたゴリラやオランウータンは狩りはしないらしい)。著者の眼前でおこったそれは、まさに微生物が種を超える絶好の機会だった。チンパンジーが、その猿の血液、体液や臓器と直に触れているのだ。 実際、アフリカでは霊長類を含む野生動物を狩って食べる習慣がある。現在全世界に感染者がいるHIVも、その遺伝子配列から元を辿ると、ある2種の猿が持っていたSIV(Sは猿を意味するSimianのSで、HIVのHはhumanのHだ)にいきつくという。過去のある瞬間、その2種の猿を捕食したチンパンジーがおり、そこで2種のSIVウイルスが組換えを起こした。その組換えを起こしたウイルスはチンパンジーの間で広がり、やがてチンパンジーを狩った人間に血液を介して感染、やがて全世界に拡がっていく…。これが起きたのはまだ100年ほど前だと考えられている。つまり、今この瞬間も、未知のウイルスがヒトに飛び移っているのかもしれないわけだ。 著者は、野生生物と接触する人たちを監視する(文字通り見張るというわけではない)ことで、パンデミックを事前に抑え込めると考えている。著者が行ったのは、アフリカのハンターたちの協力を得て、彼らの血液を集め、サルのウイルスに感染しているかを調べてみることだった。著者の予想は当たった。猿に感染するウイルスSFVは、ヒト以外の類人猿にそれぞれ固有の種として存在している(どうやらヒトは、進化途中で絶滅寸前まで個体数を減らしたことがあるので、そのときに、全個体が感染して免疫を獲得したことで、ヒトに特異的なSFVは消滅したと考えられる)。一般的にヒトには感染しないはずのこのウイルスに対する抗体を持つ人がアフリカのハンターに見つかったのだ。そして、ゴリラのSFVはゴリラを狩ったことのあるハンターだけから見つかったことから、狩りを通じてヒトに乗り移っていることはまちがいないだろう。また、ヒトに白血病を引き起こすウイルスHTLV1、2は、サルのSTLVに対応するが、ハンターの間では人では感染しないはずのSTLV3に感染している人がいることがわかった。さらにまだ未知のSTLV4に感染している人まで見つかったのだ。 著者はこのような事例をあげ、監視が重要だと説く。それはウイルスそのものだけでなく、ソーシャルメディアの人々の発言や、薬の購買記録などからでも局所的なパンデミック(アウトブレイク)を察知できると説く。 ここまで紹介するとウイルスはパンデミックを引き起こす恐怖の対象でしかないように思われるかもしれないが、著者は人間に対してメリットのある利用法にも触れている。あるウイルスはがん細胞に特異的に感染し、がん細胞だけを殺していく。人にひろく感染しているGBVというウイルスは病原性は認められていないものの、HIV感染者の寿命を延ばしている可能性があるという。 訳者もあとがきで記しているが、ただウイルス感染症の話にとどまらず、ウイルスを利用する寄生バチの話題など、生態系を大きくとらえ、共生関係を興味深く描いている本書はとても興味深く、お薦めである。

Posted byブクログ

2013/05/28

パンデミックの話はそんなに頁を割いてないものの、類人猿の猿狩などいろいろ知らない知識が詰まっていて面白い

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2013/05/26

ウイルスの人間への影響がとてもわかりやすく説明されている。HIVの歴史が比較的簡単な相互作用、中央アフリカでチンパンジーがサルを飼ったことがはじまりだと走らなかった。 ウイルスは動物、人間を移動しながら繁殖していく。動物の身体では無害だったが、人間の身体の中に入ると、害を及ぼす...

ウイルスの人間への影響がとてもわかりやすく説明されている。HIVの歴史が比較的簡単な相互作用、中央アフリカでチンパンジーがサルを飼ったことがはじまりだと走らなかった。 ウイルスは動物、人間を移動しながら繁殖していく。動物の身体では無害だったが、人間の身体の中に入ると、害を及ぼすこともあるみたいだ。動物を生で食べることの危険性がよくわかった。他の動物と接触することは、新しいウイルスが人間の身体に入る可能性を高くするのだ。複数のウイルスが身体の中で出会い、遺伝子を交換する機会を増やす。ウイルスが遺伝子を交換する方法は2つある。遺伝情報を直接変えること(変異)と、遺伝情報を交換すること(遺伝子の組み換えと最集合)だ。変異は、遺伝的に新しいものを作るための重要なメカニズムで、確実だがゆっくりしている。一方、後者の遺伝子組み換えと再集合は、まったく新しい遺伝的特質をすばやく得る能力をウイルスに与える。HIVは寄せ集めのウイルスだ。2種類のサルのウイルスが、ある時一匹のチンパンジーに感染して、体内で遺伝子組換えが行われ、HIVの祖先が生まれたのだ。 深い内容がとてもわかりやすく説明されていてとても満足。

Posted byブクログ

2013/04/08

ウイルスが最近熱い。病原体としてもだが、進化や発生の過程でも大きな役割を担っている。しかも、歴史に与えた影響も甚大。スケールの大きい感じがいいなぁと思ってたら、某ジャレド・ダイアモンドと共同研究したりしていたみたい。道理で。 動物(ヒトを含む)はウイルスや細菌を保持しているもの...

ウイルスが最近熱い。病原体としてもだが、進化や発生の過程でも大きな役割を担っている。しかも、歴史に与えた影響も甚大。スケールの大きい感じがいいなぁと思ってたら、某ジャレド・ダイアモンドと共同研究したりしていたみたい。道理で。 動物(ヒトを含む)はウイルスや細菌を保持しているもので、ある意味ウイルスや細菌の塊。 人類は(少なくとも)一度人口が激減したことがあり、その時に人類が保持している微生物の多様性も減少した。また、人類が熱帯雨林を出たことで、他の猿と接触する機会が減ったことも人類が接触する微生物の種類が減ることにつながった。これに加え、熱を使って調理することでも微生物との接触が減少した。 これによって安全になった一方で、微生物に対して脆弱になったと思われる。 この後、人口が増加し人口密度が増加したこと、牧畜を初めて家畜との接触が増えたこと、さらに道路・航路・空路などを通じて移動が激増したことが、未知の微生物との接触機会を増加させた。さらに、医療も微生物の拡散に貢献してしまっている。注射を通じてHIVやC型肝炎が広がったのが例だ。また、輸血も血だけでなく病原体も広げる。さらには、移植もそうだ。特に異種移植にはその危険性が高い。人から人へ感染することはない狂犬病だが、角膜移植を通じて感染したという事例が10件ほど有る。(!) 新型の病原体の発生は、動物からヒトへ感染するところから始まる。 最前線に位置するハンターに協力してもらうことで、パンデミックの発生を未然に防ぐことが出来るのではないか。 バイオテクノロジー、GIS、モバイルテクノロジーの発展がこの分野を大きく前進させている。(例えばCall data recordから、インフルがどう拡大するかの予測ができる)→デジタル疫学 感染防止にはワクチン・手洗いが重要

Posted byブクログ

2013/04/01

生まれ変わったら男がいい、女がいい。という話題を良く耳にするが、傲慢すぎる。生まれ変わったら、我々はほぼ100%微生物である。 そんな微生物の中でも特に小さいが、時にパンデミックを引き起こすウイルスについて、ウイルス研究の第一人者でもあり、世界各地の「新型ウイルスが発生しそうな場...

生まれ変わったら男がいい、女がいい。という話題を良く耳にするが、傲慢すぎる。生まれ変わったら、我々はほぼ100%微生物である。 そんな微生物の中でも特に小さいが、時にパンデミックを引き起こすウイルスについて、ウイルス研究の第一人者でもあり、世界各地の「新型ウイルスが発生しそうな場所」を巡り、パンデミックの兆候を常に調べている著者が書いたこの本。 私としては、無力以外の何者でもないので、ただ頑張って下さいと祈るぐらいしか出来ないのではあるが、もしもパンデミックが起こった場合に備え、正しい知識を持ち合わせておくために、この本を読んで損は無い。

Posted byブクログ

2013/03/09

ネイサン・ウルフのパンデミック新時代を読みました。 人間と微生物やウィルスとのかかわりを解説した本でした。 人類の生い立ちを遡って類人猿とウィルスの関わりが解説されていて、人類が一度絶滅の危機に瀕するほど個体数が減少してしまったために、感染症に対する耐性が低くなってしまっている...

ネイサン・ウルフのパンデミック新時代を読みました。 人間と微生物やウィルスとのかかわりを解説した本でした。 人類の生い立ちを遡って類人猿とウィルスの関わりが解説されていて、人類が一度絶滅の危機に瀕するほど個体数が減少してしまったために、感染症に対する耐性が低くなってしまっていると解説されています。 また、昔は悪性のウィルスが発生したときに局地的に感染が広がる(アウトブレイク)だけだったのが、現在は世界が航空機の交通網によりつながったことにより、広く世界中に感染が広がってしまう(パンデミック)リスクが大幅に増加してしまったことが解説されています。 ジャレド・ダイアモンドの銃・病原菌・鉄と関連する解説もあって面白く読みました。 人間はたくさんの微生物と一緒に生きているので、微生物を絶滅するのではなく、身体の中に良い微生物を増やすことが重要だ、という解説は面白いと思いました。 腸の中の微生物の状態により肥満が発生するという研究もあるそうなので、「腸内微生物ダイエット」なんてものがそのうち流行るんじゃないかな、と思ってしまいました。

Posted byブクログ

2013/01/19

この本を読むと、見えないものが見えてくるというこの表現が比喩的でなくあてはまります。 ちょっと専門的になりますが、微生物というくくりを説明すると「顕微鏡でしか見えないあらゆる有機体」と著者は書いています。この中にはウイルス、細菌、寄生虫、プリオンなどが含まれるのですが、この本では...

この本を読むと、見えないものが見えてくるというこの表現が比喩的でなくあてはまります。 ちょっと専門的になりますが、微生物というくくりを説明すると「顕微鏡でしか見えないあらゆる有機体」と著者は書いています。この中にはウイルス、細菌、寄生虫、プリオンなどが含まれるのですが、この本ではその中で最も小さいウイルスを取り上げています。ウイルスは「地球上でもっともすばやく進化する有機体」であり、他の有機体に依存し進化を遂げているので、副題にあるようにウイルスを研究することは人類の進化を知ることにつながるわけです。 著者のネイサン・ウルフはもともと中央アフリカで野生のチンパンジーを対象とした研究を計画していて、感染症の研究はその付随として始めたとのことですから、あの「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレット・ダイヤモンドも研究仲間として登場します。人類の共通祖先と考えられるチンパンジーが、狩りをする能力を持っていたことにより、獲物となったサルが持っていたウイルスが種を超えて移動した出来事などは、とても興味をそそられる内容でした。 この本は、この先起こりうるパンデミック(感染症が世界的規模で流行することで、特定の地域や集団での流行はアウトブレイクという)の脅威は、想像しうる最悪の火山噴火やハリケーン、地震の脅威より大きいとして、それを予測、予防するための方策まで示しています。しかし、パンデミックの脅威を必要以上に煽るというような記述ではないため、著者の予防活動にも感心しましたが、微生物の知らざれる世界により惹かれました。人間の目に見えるか見えないかで判断される世界の何と狭いことか、またウイルスを有害なものとして見がちですが、多様性という物差しで見れば、ウイルスはどの生態系でも細菌がそこで支配的とならないような「独禁法の取締官」の役割を演じているということでしたので、これもあらたな知見でした。だいたい、人間の体を考えると細胞の数で言えば、約10パーセントが人間にすぎなくて、ほかの90パーセントは皮膚や腸内、口の中で繁殖する大量の細菌やウイルスで占められるという記述に多少なりともショックを受ける方が大半でしょう。微生物の世界は<新世界>であり、地球でまだ知られていない生命の最後のフロンティアという表現が印象強く残りました。

Posted byブクログ

2013/01/17

 まず著者Nathan Wolfe の圧倒的なバイタリティに敬服。スタンフォード大生物学教授という堅物そうな肩書きからは想像し難いが、ウィルスと人間の邂逅するフロンティアを求めて世界中の辺境を流転する冒険家なのだ。しかしその一方で、既存のネットワーク・インフラを駆使して世界規模の...

 まず著者Nathan Wolfe の圧倒的なバイタリティに敬服。スタンフォード大生物学教授という堅物そうな肩書きからは想像し難いが、ウィルスと人間の邂逅するフロンティアを求めて世界中の辺境を流転する冒険家なのだ。しかしその一方で、既存のネットワーク・インフラを駆使して世界規模のウィルス・モニタリングシステムを作り上げようと奮闘する夢想家でもある。    本書前半から中盤にかけては、人間の進化と生活様式の変遷に沿いつつ、さまざまな実例に触れながら、パンデミック - ウィルス感染症の爆発的流行 - が生じる素地がどのようにかたちづくられたかが語られる。終盤ではウィルスの便益的活用の可能性とともに、パンデミックの発生を如何に早期に感知するかが模索される。  個人的には、著者の思い描く「地球規模の免疫系」は素晴らしいと思う反面、いざこのシステムがワークしてパンデミック厳戒令が敷かれた場合に、我々の行動やコミュニケーションに課せられる制約はどこまでが許容されるのか、そして誰がそれをコントロールする権限を持つのか、が気になった。著者も述べているように、生活を維持するためにウィルスへの被爆の機会の多い行動を取らねばならない人々を責めることは難しいのだ。    ただ、そうは言ってもやはり本書の随所で指摘されるように、現代社会がパンデミックに対し脆弱であることは確か。やや繰り返しが多く読んでいて飽きる部分もあるが、日頃目にできないウィルスの世界の芳醇さが認識できるだけでも一読の価値ありといえる。

Posted byブクログ