新潮45特別編集「原節子のすべて」 の商品レビュー
ながらく積読状態だったこの本を、ご逝去の報を受けて取り出してきた。執筆陣はなかなか豪華だし、目新しいエピソードも盛り込まれている。が、それがいかにも新潮45的な切り口で、日本映画ファンとしては物足りないのである。原節子ファンとしても不満だろう。会田昌江という人間の研究?としてなら...
ながらく積読状態だったこの本を、ご逝去の報を受けて取り出してきた。執筆陣はなかなか豪華だし、目新しいエピソードも盛り込まれている。が、それがいかにも新潮45的な切り口で、日本映画ファンとしては物足りないのである。原節子ファンとしても不満だろう。会田昌江という人間の研究?としてならまずまずだと思うのだが。
Posted by
『新潮45』は、一昨年3月号で《デビュー75周年記念 伝説の美女「原節子」を探して》という特集を組んだ。内田吐夢の幻の作品『生命(いのち)の冠』(1936)のDVDを付録に付けつつ、たったの\890という太っ腹ぶりを見せ、これがどうやら当たったのか、二匹目ばかりか三匹目のどじょ...
『新潮45』は、一昨年3月号で《デビュー75周年記念 伝説の美女「原節子」を探して》という特集を組んだ。内田吐夢の幻の作品『生命(いのち)の冠』(1936)のDVDを付録に付けつつ、たったの\890という太っ腹ぶりを見せ、これがどうやら当たったのか、二匹目ばかりか三匹目のどじょうがいる。昨秋にまたまた出た『新潮45』の特別号《原節子のすべて》。今回は、原節子が泣きじゃくったり、自殺を図ったりするという春原政久監督『七色の花』(1950)のDVDが付録に付いている。 それにしてもどうしてこう何十年間も、原節子ばかりが話題になるのか? その美貌もさることながら、やはりこの人自体に「変態的」と言っていいほどの面白さがあるからだろう。スクリーンの中でいつもどこか居心地の悪そうな、あいまいなアルカイック・スマイルで煙に巻いてしまう彼女。そういう彼女を世間はいかようにもいじくり回し、それでも神話はビクともしない。この世から静かに退場する日を待っているのだろうか。 本誌は、この伝説の女優に対し、可能なかぎりサディスティックに振る舞おうとしている。義兄で映画監督の熊谷久虎との怪しい関係。戦争末期、原節子と熊谷久虎は、夫人である姉とその子どもたちを九州へ疎開させ、いわば他人同士の男女だというのに都内の家屋で一つ屋根の下で暮らしたという。熊谷久虎は『阿部一族』(1938)などで世の映画マニアのあいだではある一定の評価を持つ監督だが、戦中の極右団体「スメラ学塾」の幹部をつとめるなど、曰く付きの人物である(彼女がナチス・ドイツへ『新しき土』のプロモーションのために旅行した際も、川喜多長政・かしこ夫妻とともに義兄の熊谷が同行している)。 あるいは、戦後、下北沢の喫茶店「マコト」2階における東宝プロデューサー藤本真澄との度重なる逢い引き。こういうスキャンダラスな挿話、噂をあたう限りかき集めた誌面である。 片岡義男、半藤一利、上條昌史、横尾忠則、高橋惠子、茂木健一郎、長部日出雄、草笛光子、アラーキー。豪華執筆陣がいずれも面白い文を寄せているが、もっとも秀逸なのはやはり、巻頭におかれた石井妙子によるノンフィクション「評伝原節子 「永遠の処女」の悲しき真実」の呵責なさだろう。最後の一文「その女優は、今、この墓石の下で眠っている。」には、なんとも知れぬ途方もない読後感に見舞われた。 『七色の花』のDVDは未見。映画会社もフィルムセンターも持っていない貴重なプリントが、大阪のコレクターから借り受けられて復活したDVDとのことだが、評価はけっこう高い作品で、後日またゆっくりと楽しませていただこう。
Posted by
- 1