喜ばしき知恵 の商品レビュー
ニーチェの著作の中では、調子が明るく高揚感のある文章が続く(特に第四書)。一大事である神の死を喜ばしく受け入れ、一個の肯定する者として、新しい時代に嬉々として突入する姿が見える。 第一書、第二書は「ニーチェ的なエッセイ」くらいの印象だったが、第三書からニーチェの本領発揮となるので...
ニーチェの著作の中では、調子が明るく高揚感のある文章が続く(特に第四書)。一大事である神の死を喜ばしく受け入れ、一個の肯定する者として、新しい時代に嬉々として突入する姿が見える。 第一書、第二書は「ニーチェ的なエッセイ」くらいの印象だったが、第三書からニーチェの本領発揮となるので、そこまで読み進めてほしい。もしそれも無理そうなら、いきなり第三書から読み始めてもよいと思う。 神の死、つまり既存の価値観が否定された後に、いかに率直に自己と世界を『肯定』するか、その実例が豊富に語られる。肯定するといえば大げさに聞こえるかもしれないが、序文に大きく取り上げられている『健康』と等しいと思う。 そして「ニーチェの核心」として語られがちな永遠回帰は本書で初めて示される。しかし私が読んだところ、むしろ主眼は『一個の全面的な肯定者になること』であり、永遠回帰はそれに至る手段、あるいは思考実験ではないかと思った。 逆に、既存の文化・哲学・価値観(とりわけリスト教)への批判(否定)も多くあるが、他の書ほど激烈な調子ではない。そういったものが読みたい人は『道徳の系譜学』をお勧めしたい。 私は本書『喜ばしき知恵』と『道徳の系譜学』が、ニーチェの肯定と否定のそれぞれの極点だと思う。ニーチェを読むなら最低でもこの2冊だろう。もう1冊、総まとめとして加えるなら『偶像の黄昏』か。詩的感性が十分な人であれば『ツァラトゥストラ』だけで足りるのかも知れないが、私には散文による著作の方が理解が容易であった。 全体の流れは以下のような感じである。 序文…病から快癒した者の晴れやかな境地が描写される。 第一書…人間観、高貴-卑俗、強者-弱者、道徳、生命観、文明、等々。 第二書…科学的世界観、真理観、女性、芸術、音楽、学問、詩人、等々。 第三書…ここから我々の知っているニーチェ的テーマが頻出する。神の死、それによって一変する世界・認識・真理観・道徳、そして本格的なキリスト教批判。 第四書…肯定すること。まさしく『喜ばしき知恵』と言いたくなる明るい調子。ニーチェの一つのピーク。否定にとらわれないこと。自由精神。エゴイズムの肯定。 第五書…ツァラトゥストラの後に増補された章。『善悪の彼岸』や『道徳の系譜学』と同時期の思索であり、批判的な調子が強い。 第一書の前、第五書の後に収録される詩的文章に関しては、私には理解が難しかった。 それでも最後の一句を読んだときには寂しさに襲われた。少しの間、仲良くしてくれていたニーチェ氏との「さよなら」のように感じて。このような読後感を与えてくれた書物は、他に無かったように思う。 『「生は認識の手段である」──この原則を胸に抱いてこそ、われわれは単に勇敢になるだけでなく、喜ばしく生き、喜ばしく笑うことができるのだ!』
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注釈など、研究に使うにはちくま学術文庫の方が良いが、普通に読むのであれば、こちらが読みやすいのでオススメ
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この訳は3章から。ちくま学芸の訳より数段読みやすく、流れるように読める。 とはいってもニーチェ自身に由来する難しさはあるので、まあ何度か読み返さねばというところである。第3章あたりの短い断章の方が好きだ。
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[関連リンク] 『喜ばしき知恵』 フリードリヒ・ニーチェ epi の十年千冊。/ウェブリブログ: http://epi-w.at.webry.info/201212/article_1.html
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