盲目と洞察 の商品レビュー
◆十分に理解できたわけでも、主張すべてに首肯できたわけでもないけれど、非常にスリリングで手応えのある読書体験だった。フルコースのディナーにたとえれば、メインディッシュといえる第7章デリダ論が白眉。デリダの粗を探して批判するのではなく、最もおいしいトロの部分を評価しつつ批判するとい...
◆十分に理解できたわけでも、主張すべてに首肯できたわけでもないけれど、非常にスリリングで手応えのある読書体験だった。フルコースのディナーにたとえれば、メインディッシュといえる第7章デリダ論が白眉。デリダの粗を探して批判するのではなく、最もおいしいトロの部分を評価しつつ批判するという二重の身ぶり。◆レトリックのうちに洞察(明)と盲目(暗)を表裏一体のものとして読むド・マンの読解スタイルは、扱う批評家に対する評価と批判もまた背中合わせで、文学と批評(哲学)の関係も常に問いかけている。◆名シェフのド・マンが差し出す料理は全9品(章)。そのうち第1~3章は俯瞰的なパースペクティヴでの論考。フライやアウエルバッハら文芸評論家への言及とともに、レヴィ=ストロースやメルロ=ポンティといったフランス思想家への言及も多い。前菜としてはやや重いけれど、カラフルな彩りのオードブルといった趣。たとえば3章はビンスヴァンガーをダシにしてフーコーを語っているかのような印象で、「野菜を食べているつもりが魚を食べていた」みたいなフェイクがある。論旨をやや辿りにくいところもあるので、最初の3皿でつまづかないように注意したい。◆第4~7章は何が料理されているのかが明快だ。ルカーチ、ブランショ、プーレ、デリダが調理された4皿。元の素材をある程度知らないとシェフの腕前を測れないけれど、4人の批評家にド・マンがしっかり対峙していることが伝わる濃厚なテイスト。甘いかなと最初は感じてもかなり辛いスパイスが後から効いてくる。◆最後の2品、第8・9章は「モダニティ」を扱った論考。デザートというにはこれまた重いけれど、他の章に比べれば予備知識がさほどいらない。とはいえ、注意深くかまないとシェフの伝えようとするテイストを味わい損ねてしまうのは他と一緒。◆71年に原著が出てから40余年を経ての待望の翻訳。《批評の批評》ともいえる評論集。本書のキーワードはタイトルにもなっている「盲目(ブラインドネス)」と「洞察(インサイト)」だけれど、ひと言で形容するなら、これは「アレゴリー料理」といえるのかもしれない(アレゴリーとは?――本書はその問いをめぐっている)。
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