巨大ブロック化する世界と孤立する日本(1) の商品レビュー

嶋正和【著】

2012/12/25

　TPP賛成の書である。TPPやFTAなどがマスコミをにぎわすが、その内容の簡単な意味はわかっても詳細に踏み込んで理解することはなかなか難しい。
　そもそもTPPは経済問題なのだろうか、それともアメリカからの要請による政治課題なのであるのか。
　本書を読むと、すでにアメリカは基本的に二国間協議であるFTAの締結は行わない方針を決めているという。そうなるとアメリカとの協定はTPPかゼロかしかないわけだ。やはりTPPは政治的側面の方が強いようにも思える。
　本書は、製造業の意見の代弁者の日刊工業新聞の発行であるから、FTA・TPP大賛成の書であるのは当然であるが、ちょっと読んだだけでも、デメリットへの言及が弱い。
　TPPもFTAも供給が増える政策であるから、当然日本国内のデフレは加速されるのではないか。
　またTPP・FTAを締結すれば、製造業の工場の海外移転はなくなるような記載があるが、アジアの大人口の需要地と賃金の安さを考えると、とてもそうは思えない。
　素人ですら、本書の内容の疑問点はすぐに浮かぶのであるから、本書はちょっと偏った内容であると思えた。
　それにしても、日本の政界では自民党・民主党を問わず、TPPの賛成派と反対派がまぜこぜになっている。
　このような国の重要課題が整理されていないのは、産業別に利害があるからだとは思うが、政治家は長期的視点でわかりやすく語って欲しいものである。
　本書を読み、安倍政権も「交渉力」を標榜するのならば、アメリカにTPPではなく、より交渉しやすいFTAを要求したらどうなのかとも思ってしまった。
　TPPについては、みんなの党も維新も自民党も「国益にならなければ退席すればいい」とはいうが、「ジャイアンの独演リサイタル」に参加した「のび太」が途中で席をたって帰れるとは到底思えない。本書は残念な本であると思う。