去年はいい年になるだろう(下) の商品レビュー
私小説風、自伝的SF。リアルな生活感や内輪ネタと、歴史改変の壮大なストーリーがいい感じでマッチ。作者の“趣味”を押し出したラストにはニンマリ。
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星雲賞は日本SF大会のファン投票でその年の最も優れた作品に贈られる賞である。直木賞・芥川賞のようにプロが選ぶ賞よりも、ファンから直接支持されるのは作家冥利に尽きるものがあるのだろうと推測される。そして本書は星雲賞受賞作である。 未来から人類に福祉をもたらすガーディアンの到来...
星雲賞は日本SF大会のファン投票でその年の最も優れた作品に贈られる賞である。直木賞・芥川賞のようにプロが選ぶ賞よりも、ファンから直接支持されるのは作家冥利に尽きるものがあるのだろうと推測される。そして本書は星雲賞受賞作である。 未来から人類に福祉をもたらすガーディアンの到来という大きな出来事を、「僕」山本弘の自伝小説的な視点から描いていく。2001年当時に執筆していた『神は沈黙せず』はガーディアンの来訪により発表困難と判断するほかなくなるのだが、改変前の未来でこの力作が星雲賞を取れたのかどうかとガーディアンに聞く場面がある。その年の受賞作は小川一水『第六大陸』と聞いて、がっかりするというわけだが、めでたく本作で星雲賞受賞。おめでとうございます。 星雲賞受賞作ということは多くのSFファンを唸らせた小説というわけで、このままSF私小説としては終わらないだろうと思うも、期待を裏切らない急展開とその余韻が待っている。 善意でなされたことはよい結果をもたらす、と何となくみんな思っているのではないか。それが確信に至ったら、結構押しつけがましい善意になる。人類は正義の名の下にもっとも残虐なことをしてきたというテーゼはそこからそう遠くはない。善意はよい結果を生まないなどと断言したら、おそらくナイーヴな人々の反感を買うだろうが、ガーディアンの善意がどういう結果をもたらすのか、相当突き放した視点から作者は描いていく。しかも自分をネタにしているところが作家根性を見せてくれているというべきか。 過去を書き換えてしまうというご都合主義を描きながら、やはり人生は唯一のものであるという認識が示されるのが余韻である。
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予想できない展開と、予想出来つつそうなってほしくなかった展開とが一気に話に乗ってくる。見え見えの伏線も、全く気づけなかった伏線も、どちらも意図して置かれたものなのだろう。論破されてもなお意味の無くなった行為を続ける彼らは、少し人間らしさを手に入れたのだろうか?
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最初の方は未来からのメッセージでニヤニヤしながらも、ゆっくりと読んでいって、ちょっとだれてきたかな?と思ったところで、まさかの2702年からのタイムトラベラー登場。 今度は人間だけど…。 どういう終わりになるのかと思ってたけど、なかなかいい終わり方で面白かった。
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久しぶりに山本さんの本を読んだ。上巻はこれは今まで読んだのよりおちるかと危惧したのですが、下巻の後半から俄然面白くなりました。タイムトラベルとパラレルワールドですね。カーディアン(なんどカーデガンといいそうになるか^^)の人間を幸福にしたいという本能が切ないですね。人間ではないも...
久しぶりに山本さんの本を読んだ。上巻はこれは今まで読んだのよりおちるかと危惧したのですが、下巻の後半から俄然面白くなりました。タイムトラベルとパラレルワールドですね。カーディアン(なんどカーデガンといいそうになるか^^)の人間を幸福にしたいという本能が切ないですね。人間ではないもの。アンドロイドやロボットが将来、自我をもったときの問題を提示していてとても面白かった。それに私小説風なところも現実とクロスしていて楽しめた。ただ、この内容だったら、もう少し圧縮して短くした方が良かったと思う。でも面白かったです。
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山本弘『去年はいい年になるだろう・下巻』 (2010年4月・PHP研究所 / 2012年10月・PHP文芸文庫) 歴史を変えてくれと誰が頼んだ?ガーディアンは多くの人々を救ったが、その一方で、本来の歴史では幸せだった人が不幸になるケースも出てくる。SF作家である僕も、その一人だ...
山本弘『去年はいい年になるだろう・下巻』 (2010年4月・PHP研究所 / 2012年10月・PHP文芸文庫) 歴史を変えてくれと誰が頼んだ?ガーディアンは多くの人々を救ったが、その一方で、本来の歴史では幸せだった人が不幸になるケースも出てくる。SF作家である僕も、その一人だった―。本は出せないし、妻の真奈美は美少女アンドロイド・カイラとの仲を疑い始めている。妻の反対を押し切って、宇宙に浮かぶガーディアンの母艦・ソムニウムを訪れた僕は、彼らに対して疑問を抱き始めた…。第42回星雲賞・日本長編部門受賞作。 65点(100点満点)。
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SF私小説とオビにある。SFなのに私小説?そんなことは可能なのか?いや、可能でした。 主人公が作者の山本弘本人で、周辺人物も実在の名前がどんどん出てくる。その上でこれは、パラレルワールドなのだ。タイムマシンものだが、自分が乗るのではなく、乗ってきたものがいる。世界と自分がどう受け...
SF私小説とオビにある。SFなのに私小説?そんなことは可能なのか?いや、可能でした。 主人公が作者の山本弘本人で、周辺人物も実在の名前がどんどん出てくる。その上でこれは、パラレルワールドなのだ。タイムマシンものだが、自分が乗るのではなく、乗ってきたものがいる。世界と自分がどう受け止め、対処していくのか、という話。 回りくどい自己の心情描写がいつもより一層クドクドしいのは、まさに私小説らしい。そして奥さんと子どもをどれだけ愛しているかの説明もある。そして実際に書かれている作品名が羅列されて、これらが書かれる前だというのは、読んでいてこちらも混乱しそうになる。震災後だったらこの作品をどうしただろうと思ったとき、それもこの本の中にあるケースと同じだと気がついたら、発想の素晴らしさに得心した。 星雲賞。
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上下巻通してのレビュー。 SF私小説でもあり遠巻きなラブストリーでもある。 人工知能を持つマシン(アンドロイド)と人間の対話は山本弘らしい部分である。 題名からもタイムトラベルものであることは予想できるが、そこは一捻りきかせており、前半からちょっと失速気味に感じる中盤をよく噛みな...
上下巻通してのレビュー。 SF私小説でもあり遠巻きなラブストリーでもある。 人工知能を持つマシン(アンドロイド)と人間の対話は山本弘らしい部分である。 題名からもタイムトラベルものであることは予想できるが、そこは一捻りきかせており、前半からちょっと失速気味に感じる中盤をよく噛みながら後半の展開を読むと美味しくなる。 なので、せかせかと読んで面白いか面白く無いかを決めるのはよくない小説だと思う。 2011年3月11日以降に書いたものであったらどうなっていたかと考えずにはいられない。
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タイムトラベル、アンドロイド、歴史改変、使われている要素は言わば使い古されているもの。主人公は作者自身で、題材やストーリーの下地は作者自身の過去や作品だ。リサイクルと言ってもいいような要素で組み立てているにも関わらず、なんでこんな話が書けるんだ。 歴史改変が世界に与える影響、そし...
タイムトラベル、アンドロイド、歴史改変、使われている要素は言わば使い古されているもの。主人公は作者自身で、題材やストーリーの下地は作者自身の過去や作品だ。リサイクルと言ってもいいような要素で組み立てているにも関わらず、なんでこんな話が書けるんだ。 歴史改変が世界に与える影響、そして1個人に与える影響、そのマクロな視点とミクロな視点の考察がすばらしい。完璧ではないんだろうけど、1つ1つの展開に説得力があるし納得できる。 落とし方は賛否両論ありそうだけど、結局のところこの話は奥さんや娘さんをこんなにも愛しているんだっていう、SF者なりの婉曲的なラブストーリーなんじゃないかと思いました。
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