生殖技術 の商品レビュー
そうだな、まず、「どうしてそんなに必死こいて子どもをつくるのか」ということを考えてみなくちゃならんよな。
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<丁寧に丹念に、生殖技術に関わる問題を解きほぐす試み> 最先端の技術を巡って、社会全体に関わる倫理的・社会的問題が生じることがある。 それまで存在しなかったものが巻き起こす予想外の事態に、健全な社会としてどう対峙していくのか。 技術を開発し、遂行する者。その技術を利用し、恩恵を...
<丁寧に丹念に、生殖技術に関わる問題を解きほぐす試み> 最先端の技術を巡って、社会全体に関わる倫理的・社会的問題が生じることがある。 それまで存在しなかったものが巻き起こす予想外の事態に、健全な社会としてどう対峙していくのか。 技術を開発し、遂行する者。その技術を利用し、恩恵を受けようとする者。そして一見、直接の関係はないようでも、間接的に資金を提供し、いずれその技術の恩恵を受ける可能性もある、多くの者たち。 さまざまな立場から、その問題についてどう思うのか、どこに着地したいのか。そうしたことに関して議論がなされず、あるいはそれ以前に、技術に関する知識自体が浸透していない、と感じることがある。 生殖技術もその1つだろう。 本書では、生殖技術周辺で生じている問題を丁寧に解きほぐし、何が問題なのか、どうして問題なのかを可視化することを試みている。著者の専門は医療人類学、生命倫理学とのこと。技術的な解説というよりは倫理周りの問題が主題である。 *なお、副題は「不妊治療と再生医療は社会に何をもたらすか」となっているが、再生についてよりも圧倒的に不妊に関する論点が多い。再生に絡む問題として、胚から作り出されるES細胞について触れられているが、これは再生医療自体の問題というよりも、ES細胞作製に受精卵を使用することによる倫理的問題についてだと思う。iPS細胞についても少々は触れられているが、新しい技術であることもあるのか、考察に物足りなさを感じた。 不妊治療にあたって、人工授精後、母の胎内に戻す場合、精子または卵を他者から提供してもらう場合、同性愛者の事例等に生じる問題を挙げている。 著者が挙げている問題点のうち、個人的に印象に残ったのは以下: ・受精卵や組織が無断使用されることがあった ・ESに関連して、韓国でかつて大規模捏造・不正事件が起きた ・不妊治療を受けている人は「スティグマ」(烙印)を押されているように感じている→やめたくてもやめられない、有形無形の圧力 ・生殖につきもののジェンダーの問題 ・疾患が男性側のものであっても医療の対象となるのは女性である ・選択が患者に委ねられるが、特に日本では選択に関する訓練が十分とは言えない ・医療行為としては行うけれども、自分(や家族)には行いたくないという医師が多い ・医療を受ける当事者と医療を施す側の意識の乖離が大きい 生殖技術によって今後どのような問題が生じうるかというよりも、今現在、どのようなことが問題なのかが中心である。 不妊治療(特に生物学的な父母いずれかが戸籍上の父母と違うような場合)の結果、生まれてきた子ども世代の考察はまだ十分ではないようである。子どもが成人していくにあたって、追跡調査に必要な年数がまだ足りないということか、あるいは調査に応じる子ども世代のサンプル数が足りないか、いずれかなのではないかと思う。 全般に、丁寧な論調で、読みやすく書かれているように感じる。 実を言うと、個人的には再生医療の方に関心がよりあった上、もう少し技術寄りの本かと思っていた。そんなわけでいささか肩すかしの感はあったが、生殖技術に関してさまざま考えてみる機会になった。 参考 ・『不死細胞ヒーラ』:研究試料の無断採取に関して ・『エンブリオロジスト』:生殖医療の胚を取り扱う技術関連のルポ ・『科学研究者の事件と倫理』:研究者の不正 *タイムリーにこんなニュースもあった。 海外で卵子提供を受ける女性急増 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130110/t10014719011000.html *前述のように、本書では再生医療に関しての記述は少ない。iPS細胞研究が進んでいけば、倫理的な問題と免疫の問題を孕むES細胞は顧みられなくなるのかと思っていたが、どうも一気にiPSにシフトしていくというものでもないようだ(本書の記載からではなく、雑誌記事等から、そのような印象を受けている)。この辺はもう少し別の本にあたってみよう・・・。
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※このレビューにはネタバレを含みます
単に生殖技術の発達の歴史や是非を問うのではなく、生殖技術の進展が社会や文化に何をもたらしたのか、どのような社会を築いていくべきかという議論を、著者のこれまでの論文・記事を加筆修正しながらまとめた一冊。 不妊治療や生殖補助医療(ART)を中心に、卵子や受精卵等を「材料・資源」とする点で関わりの深い、現在注目のES細胞・iPS細胞といった再生医療研究と絡めながら論じていく。 卵子・胚・胎児が研究目的で「資源化」されてきた歴史から始まり、精子・卵子の売買・代理出産における「身体の商品化」、先端医療が「受容」されるプロセス、「不妊」というスティグマと「自然な身体」モデル、そしてAIDを通して見える日本の家族観と、「自己決定権」の再考。 医療でも解決できない問題があることを指摘し、そもそもなぜ「子供が欲しい」というのか、家族・親子とは何かといった、私たちが「あたりまえ」に思っていたことを考え直すきっかけを与えてくれる。
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