たった独りの引き揚げ隊 の商品レビュー
戦後の混乱期に、満州から日本への約1000kmの道のりを、たった一人で旅した少年の実話である。 士族の血を引く父親と、コサック騎兵隊の子孫である母親を持つハーフの少年が、10歳のときに満州で終戦を向かえるところから物語は始まる。 満州からの引き揚げについては、恥ずかしながら本...
戦後の混乱期に、満州から日本への約1000kmの道のりを、たった一人で旅した少年の実話である。 士族の血を引く父親と、コサック騎兵隊の子孫である母親を持つハーフの少年が、10歳のときに満州で終戦を向かえるところから物語は始まる。 満州からの引き揚げについては、恥ずかしながら本作を読むまで詳しい事は知らなかった。侵攻してきたソ連兵の略奪や、日本人に恨みを持つ中国人民の襲撃により、途中で命を落とした日本人は少なくないらしい。少年も実際にそんな場面を数多く目撃している。 ソ連軍侵攻時の混乱により、不幸にも母親と離れ離れとなった少年。しかし少年は幼い頃からコサックの厳しい訓練を受けており、持ち前の精神力を発揮して、ついに一人で日本への引き揚げを果たしてしまう。 しかも、日本に帰国したところで物語は終わらない。 少年はやがて大人になり格闘技で世界的に活躍する事となる、ビクトル古賀という名前で。ソ連の国技であるサンボで公式戦41連勝、しかもオール一本勝ちという不滅の記録を打ちたて、当時西側諸国民としては異例の、ソ連邦功労スポーツマスターを受賞してしまうのだ。 ここ数年、ノンフィクション作品を年間数十冊のペースで読んでいるが、年に1~2冊は心が揺さぶられるような良書に出会う事がある。本書はまさにそんな作品であった。
Posted by
ビクトル古賀氏は、子供の頃に護身術の本を買って以来のファンである。あの、人の良さそうな写真のおじさんに、こんな強烈な過去があったとは、考えもしなかった。 今の我々には、想像もまねも出来ない。 文体が、淡々とし過ぎてて、そこがどうかね。
Posted by
久しぶりに力強く生きたいと思わせてくれた名著。誰に頼ることなく、自分で人生を良くしていきたいと思わせてくれた。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
なんて凄いんだろう。なんて爽やかなんだろう。 満州からの引き揚げ話はとかく暗くなりがちだが、本書の読後感はどこか草原を吹き抜ける風のように清々しい。 こんな少年もいたということを、ずっと記憶にとどめておきたい。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
コサックと日本人の血をひく少年ビクトル古賀。 終戦間近、ソ連軍の侵攻、中国国民党と共産党との内乱。逃れるように日本を目指すが、日本人の目にはロシア人と映る。そして引揚の汽車から降ろされてしまう。生まれ育った旧満州はロシア人、トルコ人(タタール)、中国人、モンゴル人、ユダヤ人、ツングース人、オロチョン人が住む場所。純然とした日本人では決して身につかないコミ二ケーション力がビクトルにはついている。そして抑圧されてきた民族としての生き抜くすべが、コサックの中で伝えつづけられてきた。安全な水の探し方、食べられる草、足に巻く布・・・。 辛苦ばかりが語られる引揚の中で、死を直面しながらも、少年の冒険心や溌剌とした姿が語られる。 ここで語られているのもコサック族のほんの一端だか、今まで全く知ることのなかった、時の政権に虐げられたり、利用されてきた史実を知り心痛んだ。満州時代には関東軍情報部の朝野部隊としてコサック人が対ソ謀略部隊として編成されたり、現ロシアも前線で戦う軍団として見做されている。 そのコサックの母がいい。柔道・レスリング・サンボといった武術に長け、海外に知れ渡り指導者になった息子に対し母は「強くなってもえらくない。人のために泣いたり笑ったりできる人間こそえらいんだ。」 沢山の人に知ってもらいたい。
Posted by
- 1
- 2