ドナルド・キーン著作集(第4巻) の商品レビュー
キーン氏が日本の現代を代表する作家たちといかに直接知り合い、酒を飲んだりしながら日本文学論を闘わせていたかということが新鮮でした。谷崎、川端、三島という日本の美を追究している作家への著者の高評価はある意味でその時代に彼らを中心とした日本の文壇の人たち自身と大変親しかったことも影響...
キーン氏が日本の現代を代表する作家たちといかに直接知り合い、酒を飲んだりしながら日本文学論を闘わせていたかということが新鮮でした。谷崎、川端、三島という日本の美を追究している作家への著者の高評価はある意味でその時代に彼らを中心とした日本の文壇の人たち自身と大変親しかったことも影響しているのでしょうか。一方、漱石、鷗外は好きになれないという著者の言葉の意味がよく分かります。三島の「潮騒」は三島が熱愛していた古代ギリシャの「ダフニスとクロエ」を下敷きにしていることが再三書かれており、恐らく本人からも聞いていたのでしょう。確かにそのような雰囲気があります。阿部公房の国際主義が受け入れられる一方で、司馬遼太郎がなぜ日本でしか受け入れられずに海外で無名なのか、その翻訳の難しさの説明は外国人ならではです。「これぞ日本人だ!」いう感情を私たちは持ちながら読んでおり、その阿吽が外国人には理解できないことというのは面白いことです。太宰とキリスト教については「聖書の中に自分の意思と情調を表現するのにふさわしい章句を発見した」に過ぎないと喝破しているのは、非常に明快です。キーン氏が「近代文学における最大の作家は谷崎だと敢えて言う」と宣言するのはそれだけ源氏物語の美意識の世界がキーン氏にとっても影響が大きいのかも知れず、嬉しいような、複雑な心境です。また詩人が海外で評価されない説明の中で三好達治の「雪」を題材に翻訳のむずかしさを説明していることも司馬遼と共通点があるように思います。一方、西脇順三郎の国際性の説明はリルケ、ヴァレリー、エリオットと共に20世紀を代表する4大詩人だと書きながら、世界的名声がないのは、訳者たちの怠慢だ!と明言しており、心から賛同。
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